研究課題/領域番号 |
23652025
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
滝 一郎 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (80242072)
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キーワード | ベルクソン / アルフレッド・ジャリ / プロティノス / 哲学 / 美学 / 芸術 / 科学 / 直観 |
研究概要 |
今年度は未定稿の二つのマニュスクリプトからテクストを起こし、それを翻訳したうえで、ベルクソン美学の生成過程を考察した。 第一の草稿は、ベルクソンの手沢本であるフォルクマン版プロティノス『エネアデス』のマルジナリア(欄外書込)であり、第二の草稿は、ベルクソンの美学講義をパリのアンリ四世校で聴講したアルフレッド・ジャリの自筆ノートである。いずれの原稿もパリ大学附属ジャック・ドゥーセ文学図書館に保管されており、前者はPLOTINI ENNEADES, PRAEMISSO PORPHYRII DE VITA PLOTINI DEQUE ORDINE LIBRORUM EIUS LIBELLO, EDIDIT RICARDUS VOLKMANN, 1884, Vol. II, pp.158-160 (II-BGN-II-25, 2/2 ; BGN 511 2/2)、後者はLE COURS BERGSON PRIS PAR ALFRED JARRY EN 1892-1893 AU LYCEE HENRI IV (IX-BGN- III-29 ; BGN 3023, B44-45, B86-88)である 。フォルクマン版『エネアデス』第2巻の余白3頁を埋め尽くす読書ノートは、ベルクソンが1898-1899年にパリのエコール・ノルマルで行った「プロティノスについての講義 」に照合すると、この講義を生んだ主要な霊感源となったばかりでなく、ベルクソン自身の直観論を醸成する醗酵素ともなったものとして、注目に値する。また、ジャリのノートは、1891-1893年の哲学講義を筆録した大部のものであるが 、そのなかに含まれる美学講義の部分は、1886年のクレルモン=フェランでの美学講義 と比較するとき、諸著作に表立って現れないベルクソン美学の生成過程が跡づけられて貴重である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベルクソンのパリ版美学講義は、アルフレッド・ジャリの筆録した未定稿のノートから窺い知れるが、今回の調査によって、以下のような全貌が判明した。すなわち、ジャリのノートは元来Edouard Juliaが保存していたが、これを譲り受けた娘のL. Juliaが分類見出しを付してそのコピーをジャック・ドゥーセ図書館に寄贈したもので、α1-235, A1-188, B1-130, C1-132, D1-171, E1-37の都合893葉からなる。Bの目次は次のようである。Idees generales / manque la 1er partie de la lecon / voir fin A/Les Signes et le langage./ XVIII Le Jugement./L’attention et la Reflexion./Psychologie des Raisonnement./Le progres scientifique et artistique.[B44-B45]/Principes directeurs du raisonnement. / L’espace et le Temps./L’idee du monde exterieur./Esthetique. [B78-B86]/L’art. [B86-B88]/Le Mecanisme./De l’expression des emotions./De l’habitude./La Volonte. 今年度は、ジャリの悪筆を解読しつつ、Le progres scientifique et artistique [B44-B45]および L’art [B86-B88]の2項目についてテクストと翻訳を提示しえたので、前途は多難であるが、予定通りの成果を上げていると見ることができる。
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今後の研究の推進方策 |
ベルクソン美学講義の生成過程を解明するために、パリ版美学講義のアルフレッド・ジャリによるノートを調査してきたが、その哲学講義の「美学」に関する部分[B78-B86]を、テクストを校訂しながら解明しなくてはならないので、今年度は数回にわたってジャック・ドゥーセ図書館に調査に出かける必要がある。 美学講義に関するマニュスクリプトのほか、ベルクソンが使用したプロティノス『エネアデス』のテクスト(PLOTINI ENNEADES, PRAEMISSO PORPHYRII DE VITA PLOTINI DEQUE ORDINE LIBRORUM EIUS LIBELLO, EDIDIT RICARDUS VOLKMANN, 1884, Vol. II, pp.158-160 (II-BGN-II-25, 2/2 ; BGN 511 2/2)、後者はLE COURS BERGSON PRIS PAR ALFRED JARRY EN 1892-1893 AU LYCEE HENRI IV (IX-BGN- III-29 ; BGN 3023, B44-45, B86-88))の書き込みについても、あわせて調査を進める予定である。そこに見られるベルクソン的直観概念の発生は、美学講義に窺えるアナロギアの論理の生成と相即するものと思われるからである。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度に残額298,169円が生じた理由は、本研究のために欠かせないパリのジャック・ドゥーセ文学図書館での草稿研究調査が、当初の予定通りに数次にわたって遂行できず、一度しか調査研究に赴くことができなかったからである。 次年度は、この残額を新年度の交付額と合わせた予算で、同文学図書館への研究調査の回数と期間とを増加して、一層当該研究を進展させ、所期の目的を達成する予定である。
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