研究概要 |
最終年度は、パリのジャック・ドゥーセ文学図書館に三度、各一週間ほど調査に赴き、そこに保管されている未定稿のマニュスクリプト(H. Bergson IX-BGN-III-29; BGN 3023)のB78-B86について、テクストを起こした。これはパリのアンリ4世校でベルクソンの哲学講義(1891-1893)を聴講したアルフレッド・ジャリの筆記した自筆ノートのうち、「美学の諸概念/美の観念について」と題された講義である。この美学講義は既刊のベルクソン講義録のいずれの版にも(H. Hude版にも、S. Matton版にも)収録されていない未公刊の資料であり、そこでカントの美学とシュナイダーの功利主義的美学との和解が試みられていることは、アナロジーの美学に結実するベルクソン美学の生成をたどるうえで重要な論点を提供する。 同時に調査したベルクソンの手沢本であるプロティノス『エンネアデス』(PLOTINI ENNEADES PRAEMISSO PORPHYRII DE VITA PLOTINI DEQUE ORDINE LIBRORUM, EDIT RICARDUS VOLKMANN, 1884, Vol. II, II-BGN-II-25, 2/2; BGN 511 2/2)のマルジナリア(書き込み)には、円錐のシェーマとともに、永遠と時間とを往還するベルクソン的直観概念の萌芽と言うべき記述が認められて、これもベルクソン美学の生成過程を解明するうえで重要である。
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