本研究は、町田嘉章(佳聲)の民謡調査を取り上げ、戦前から戦後にかけての民謡研究の状況を明らかにすることを目的とし、以下の調査研究を行った。 町田の蔵書を所蔵している(財)日本民謡協会の協力を得て、町田の採集手帳および、未整理の草稿・楽譜・手紙等の撮影、出版原稿の複写を行った。遺稿資料を整理した結果、当初の予想よりはるかに多い2万枚を超え、その内容も民謡調査に関わるものだけでなく、戦前の新日本音楽運動に関する資料、町田の作曲作品、邦楽資料まで多岐にわたっていることが分かった。 採集手帳のうち戦前分の調査旅程、収集曲、その他の情報をリスト化し、町田が編纂した『日本民謡集成』と『日本民謡大観』(全9巻の一部)の収録曲、その他の情報もリスト化した。リスト化した情報のうち、昭和14年から16年分を照合し、一次資料(採集手帳)がどの程度、どのように二次資料(『日本民謡集成』等の出版物)で整理・分類されていったかを確認した。照合作業が終わった調査資料をもとに、町田の初期の民謡調査の足跡を分析した論文を出版した。併せて、民謡調査の成果を理論化する過程を民謡理論史としてまとめた論文も出版した。 また、町田の未整理遺稿の調査の過程で、大量の楽譜が出てきた。これには、民謡の採譜と、町田や同時代人が作曲した新民謡の草譜の2種類がある。これらは、戦前の新日本音楽運動において、作曲家が日本民謡を採譜することで、新しい音楽をつくる参考にしていた痕跡といえる。 町田の伝記によると、第二次世界大戦時の空襲で多くの資料が消失したとされているが、未整理資料の調査の結果、戦前の資料の一部を発見した。発見された戦前の資料を今後、吟味することによって、特に、町田の戦前の調査の詳細や『日本民謡大観』の初期の調査(昭和16年以降)の状況の一部が明らかになると思われる。
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