研究課題/領域番号 |
23652039
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
橋本 エリ子 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (60253366)
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キーワード | 国際研究者交流 |
研究概要 |
平成24年度の計画では、特に声楽療法(ベルカント・セラピー)の指導論を検討するために、まず第一に音楽療法の歴史的背景を調査した上で、日本人に適した声楽療法を分析し、有効性を研究した。 これまでの音楽療法家の研究においては、音楽心理学の立場から音楽の心理学的な影響、効果、曲目との関係など受容的音楽療法についての研究成果がまとめられている。不安神経症、神経衰弱状態、鬱状態、心身症・高血圧、心身症・胃腸障害などの音楽処方曲目のリストは、西洋の音楽で分類されている。しかし、日本歌曲や童謡、子供の頃に聴いた懐かしいクラシック声楽作品での実践がなされていないため、その実践効果とその有効性について研究を進めた。選曲にあたって最も重要なことは、「同質の原理」であり、気分や精神のテンポに合った音楽を使用し、憂鬱な状態であるならば、まず憂鬱な音楽を使用し、それから徐々に明るい曲に変えるという具合に、その時の気分に合った、好きな曲を使用するということを基本に、音楽の持つ感動や陶酔感を一層深めることが効果的であることが検証できた。 また、前年度に引き続き音楽療法の中でも、声楽療法(ベルカント・セラピー)による健康な歌唱により心を癒す療法としての研究をさらに進め、特に歌唱や合唱を行い、実際に音楽を楽しむことで、生きる喜びなどの生きがい再生や支援を行い、音楽健康法としての声楽療法を実践した。そして、音楽療法の中でも身体づくりと精神療法としても高い評価を得ているベル・カント発声法による声楽療法(ベルカント・セラピー)の研究を進め、中・高年の脳機能を高めるだけでなく、呆けないようにするための筋肉トレーニングをベースにした発声法を活用した声楽療法を実施し、その効果と有効性に関して検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の計画では、高齢者ケアにおける音楽健康法としての声楽療法の実践と有効性に関して研究を行った。特に、日本歌曲や童謡、子供の頃に聴いた懐かしいクラシック声楽作品を聴くことによって行う受動的音楽療法の実践とその効用に関する研究を行い、音楽という芸術媒体を通しての声楽療法により、安心したり、心地よくなったり、希望を持ったり、リラクセーションできるようになるという具合に、健康上良い効果あることが判明した。また、歌唱や合唱など発声することで呼吸状態が改善され、精神を集中させるだけでなく、実際に音楽を楽しむことで、生きる喜びなどの生きがい再生が可能となり、自己肯定的なイメージを抱くように働きかけることが実践できた。特に、ストレッチをベースにした呼吸法及び発声法を繰り返し実施し、特にベル・カントの発声練習を中心とした声楽療法に焦点を絞って、高齢者の声楽療法による健康法の有効性について研究を深めることができた。 また、ロンドンの市立大学附属のノードフ・ロビンズ音楽療法センター、そしてヨーク大学附属のギルドホール音楽・演劇学校を訪問し、英国における音楽療法の現状と現代的課題、及び今後の展望についての見解をお伺いすることができ、今後の研究に非常に役立った。その他、英国で緩和医療の先駆的な取組を行っているセント・クルストファーズ・ホスピス、ルーウィシャム大学病院、そしてガイズ・アンド・セントトーマス病院を視察し、ホスピスでの「総合医療学」としてのターミナルケア(終末期医療)、特に緩和ケアにおける音楽療法についての見識を深めることができたことは、現在の声楽療法の研究の遂行に、大いに役立った。 以上のように、音楽療法の中でも、音楽健康法としての声楽療法を実践し、また緩和ケアにおける声楽療法の有効性に関しても研究を進めることができた点において、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、高齢者における声楽療法に関しての実践と有効性に関して研究を行う。つまり、心の病やひきこもりを抱える人も歌唱による発表会や合唱団の活動をすることにより、社会とのコミュニケーションを養うことができ、また演奏会や合唱団の定期公演に出演するという目標を持つことで、努力することによる意識改革を促すことが可能となる。従って、音楽の楽しさと人との交流、さらに心身の癒しを体験し、学習し、自由に自己を表現することによって、心理面、生理面、身体機能面の改善と生活の質の向上に大きな効果が期待でき、その有効性を明らかにするつもりである。最終的には、音楽健康法としての声楽療法が、健康を維持するという予防医学的な治療に対応することを検証する。 また、カナダの老人医病学専門医であるマクマスター大学ウィリアム・モロイ教授と家庭医のエインズレー・ムーア医師の終末期ケアの取組を含めた高齢者医療・ケアの実情を視察した上で、日本における高齢者ケア及び緩和ケアにおける声楽療法の実践と有効性に関して研究を進める。さらに、緩和ケアにおける日本の懐かしい声楽曲を聴くことによって行う、受動的音楽療法による実体とその効用に関する研究を行い、患者の状態像に応じて、気分、テンポ、音の大きさを考慮し、声楽曲を聴くことにより、疼痛、吐き気、息切れ、不眠などの症状から解放され、音楽による痛みなどの緩和への効用と、感情を刺激する音や音楽が脳内機能の痛みを緩和させて、鎮痛剤の減少など音楽を通して安定した精神状態を構築する声楽療法の有効性に関して研究を行う。 以上の研究を行い、高齢者及び緩和ケアにおける声楽療法の重要性を立証し、いかにその人らしく生きられるか、その人の持っている最大限の可能性を見つけだし、積極的に自己表現できるように援助できる、より具体的で、簡単に声楽訓練できる声楽療法の実践方法と指導論を開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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