研究課題/領域番号 |
23652040
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研究機関 | 愛知県立芸術大学 |
研究代表者 |
石垣 享 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (60347391)
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キーワード | Piano |
研究概要 |
本研究の斬新性は、芸術活動である器楽演奏をスポーツ科学的な手法を用いて評価することであり、新たな研究領域の創造が期待される。これまでに、器楽演奏に関わる身体機能の発達過程を解明する研究は世界的に見ても殆ど実施されておらず、未知の領域といえる。そのために、子ども達が打鍵に適した上肢動作をいかにして獲得しているのかを、筋電図および3次元動作解析により明らかにしていく。さらに、視覚的バイオフィードバックレッスンが、幼児・児童においても効果的であるのかを、打鍵動作の滑らかさ、無駄な筋活動量の減少度を指標として検証を行い、これまで研究を重ねてきた。 本研究の主な手法は、児童および生徒の実験参加者にドミソの和音でピアニシモからフォルテシモを8段階で弾く課題を、両手および片手ずつで行わせ、その際の表面筋電図および上肢の3次元動作解析結果それぞれから、ピアノ音量調節戦略の発育発達学的検討を行うものである。 本試みの目的は、身体を用いて表現する芸術である音楽を、身体に関する科学的エビデンスを数多く有する体育学・生理学・発育発達学の手法で解明することであることから、これまでに前述した分野の学会で7回に亘る発表を行ってきた。これまでの発表に対する示唆から、子ども達の運動調整能力の発達に暦年齢による影響が大きい可能性が考えられた。発育発達期のスポーツ活動では大雑把な身体動作が認められるが、音楽演奏では微妙な筋活動が要求されるために早期からトレーニングをしている児童でも思春期前では困難であると考えられたが、小学校の中学年以上であれば、殆どの者が利き腕において十分に課題を達成する能力を有しており、中には低学年でも可能であった。したがって、早期教育が重要と考えられる音楽においても、ある程度の発育発達が無ければ、技能獲得は困難なことがある程度解明されたものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本試みは、あくまで未知の領域の研究であるので手探り状態で進行してきたが、解析されたデータを昨年度は各種分野の4つの学会で発表することで多くの示唆を得て、研究の方向性が見えてきた。その内の一つは、ピアノ教員および大学院生に児童と同様の課題を行わせ、その解析結果から標準動作を作成し、到達レベルを判断する基準を開発することである。現在、この研究を主として進行している。なぜなら、子ども達の打鍵動作はバラバラであり、何処に基準を置いて評価すればよいのか不明であったからである。これを開発すれば、子ども達の打鍵技能の達成度を広く世間一般にまで利用することが可能となる。さらに別の課題として、これまでの研究結果から、児童のピアノ打鍵動作の調節は暦年齢に大きく左右されることから、一般的な発育発達レベルの違いが含まれている。そこで実験内容を理解可能な小学中学年および高学年のピアノ未経験者を対象とした同一内容の検討により、一般的な発育発達レベルで可能となる課題達成度を見出すことを実施した。ただし、現在、ピアノ未経験の被験者の獲得が難航している。 これまでの2年間を俯瞰すると、最初は出遅れたものの現状では、種々の疑問点を具体的に解明する方法を考案できたことで、順調且つ発展的に進行しているといえる。現在では、これまで未知であった打鍵技能の発達過程の解明に加えて、それをさらに推し進める科学的な指導法の開発を世界に先駆けて開発可能であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はこの試みの最終年度となるために、最終的には成果を論文として発表することを目指す。ただし、これまで未知の領域であったことから、どのような研究誌がこの研究内容に相応しいのかを模索する必要もある。したがって、体力学および体育科学系の学会において、ピアノ打鍵動作の運動学的側面について発表を行い、論文作成における示唆を受ける予定である。現在では、日本体力医学会、日本体育学会、日本教育医学会、日本発育発達学会での発表を予定している。さらに、7月7日に愛知県立芸術劇場の中リハーサル室において「児童のピアノ打鍵技能の発達過程の検証」と題したシンポジウムを開催し、これまでの研究成果を一般に公開し、参加者の中から実験の体験を行う事業を予定している。 また、縦断研究の最終年であることから、多くの被験者のデータを取得する予定である。最終目標としては、1)大学院生等のピアノエキスパートによる打鍵技能の標準動作の作成、2)ピアノ未経験者と経験者の学齢毎の課題達成率の差違を検討することで発育発達の影響を考察する事、3)加齢による発育発達と練習による技能発達の差違を検討する事の3つを大きなテーマとして研究を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度研究費に残額が出た主な理由は、国内における学会発表が近隣(岐阜県・静岡県)で行われたことで出張費が抑制されたのと、夏期のハードディスクのクラッシュにより、夏休み中の研究が実施出来なくなり、実験補助者および被験者への謝礼が減額したことが原因である。 今年度は、海外での発表に加えて、研究成果を実践の場で提示するセミナーを7月7日に愛知県立芸術劇場の中リハーサル室において「児童のピアノ打鍵技能の発達過程の検証」と題して行う。この会場費および運営費に昨年度の余剰金を使用する予定である。 研究に必要な備品等はほぼ揃っており、経常的な経費として最低4学会での研究発表に必要とされる出張費、論文および研究成果を纏めた研究報告書の作成費、そして追加実験の被験者および実験補助者への謝金、電極等の実験消耗品が考えられる。
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