最終年度は、標準的な打鍵動作に関する研究がこれまでになされていないことから、ピアノ専攻教員および大学院生に児童と同様の課題を行わせた際のデータを解析し、これを基に打鍵動作の標準化を行った。標準的な打鍵動作は、矢状面における鉛直方向では手掌部の持ち上げ期、下行期、そして打鍵期の3期に分かれるが、水平方向では前方移動から元の位置に戻る動作であった。作成された標準打鍵動作変位の度合いは、矢状面の鉛直および水平方向とも音量の増加と同じように段階的であった。この結果を基にして、同様の課題を児童に行わせた際の標準化達成率を、部位および左右の項目で検討した。その結果、右上肢の上下および前後動作調整能力が優れている者の出現率は、いずれの部位でも9歳以上が8歳未満より多く、利き腕の調節能力は年齢の影響が認められた。両群とも掌から肘に向かい未達成者の出現割合が増加し、肘においては両群とも達成者は皆無であった。したがって、幼児・児童を対象とした熟達した打鍵動作獲得には、利き腕側では加齢の影響を受けるが、左手は明らかに訓練の影響を受け、さらに、前後動作の調節能力が重要であることが判明した。 さらに、筋電図を利用した視覚的バイオフィードバックレッスンの効果について、指導者を対象とした公開セミナーを学外で実施した。アンケート結果では、来場した指導者の殆どがこのレッスンを有効と評価し、その理由として、ピアニストは発音の瞬間のみに筋が活動し、それ以外では脱力しているのを視覚的に確認できること、言語的なイメージによらず筋活動の視覚的イメージをフィードバックさせながら、指導者の筋電波形に近づけようとすることが可能とのことであった。したがって、指導者およびレッスン生双方の筋電波形をリアルタイムで提示することで効果的な打鍵方法を獲得するためのピアノレッスンが有効であるとの確信を持つことができた。
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