平成24年度には、チュニジア古典音楽の理論的基盤を調査するため、平成24年4月にスペイン、8月にエジプトで現地調査を行った。アンダルシア音楽の系譜であるモロッコ、アルジェリア、チュニジアの音楽の歴史的関連性と変容が、楽器編成、旋法、代表的楽曲等の観点からより具体的に検証された。さらに、チュニジア音楽におけるエジプト音楽からの絶えまない影響が、多くの事例に検証された。弦楽器ウードを中心とする現代的奏法については、カイロ・アラブウードハウスの教育システムとその特質を調査し、教育メソッドの確立に大きな示唆を得た。平成25年1月には、ウード奏法の先端的一例として、エジプト系オーストラリア人ウード奏者ジョゼフ・タワドロスを日本に招聘し、ソロ・コンサートを開催した。選曲に見られる傾向、作曲法、シグニチャー・モデルのウードとその奏法の特徴など、プロデューサーならではの掌握が可能となり、またインタビューでは、音楽家の美学や哲学、独自の鍛錬法も聞き取りができ、大きな成果を得た。平成25年3月には、チュニジアを現地調査した。チュニジア伝統音楽研究機関であるラシディーア研究所では、ムラッド・サクリ所長から、演奏家・作曲家・研究者として高い評価を得て、今後の継続的発展的協力を要請された。革命後、勢力構造の変化など多少の混乱が見られるチュニジア芸術界だが、チュニジア音楽の伝統保存のみならず創造的発展に外国人として寄与貢献できるとすれば喜ばしい限りであり、チュニジア古典音楽研究にも大きな基盤ができたことになる。こうした協力関係をもとに、さらにチュニジアのトゥブー(旋法)やイスティフバル(即興演奏)の研究を進めて行く。研究期間全体を通じて、アラブ音楽資料収集も順調に進み、イラク、シリア、レバノンなど他のアラブ圏の代表的音楽家たちとも情報交換ができたことは多大な成果であった。
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