本研究は、1980年代のサッチャー政権時代から1997年以降の新労働党政権時代の英国文化政策、映画政策、映画制作・配給・興行に関わる市場環境変化の分析を通じて、英国映画作品のテクスト分析を学際的視点から行おうとするものである。これまでの英文学研究における映画作品分析においては、広い意味でのカルチュラル・ポリティクス(例えばフェミニズム)の影響は語られてきているものの、製作費資金源、流通機構の問題、テレビ局との関連など、映画制作の経済面や英国政府の文化政策全体像との接点には薄かった。一方、文化政策論、文化経済学においては、具体的作品への言及は通常なされない。本研究は、このように乖離していた社会科学と人文科学の議論をぶつけ合い、英国映画作品の変遷を新たな視点からとらえ直そうとするものであった。 特に1990年代から進行した経済のグローバル化とそれにともなう文化のグローバル化の波、そしてアメリカ国内より海外市場での売り上げの比重を高めてきたハリウッドの世界戦略の中、イギリスの文化政策としても、イギリス文化の象徴としての映画作品に力を入れる必要は増した。その一方、英国経済の活性化に必要なのは、むしろハリウッド大型作品の撮影をイギリスに招致することであるという矛盾も抱えている。この矛盾は、1990年代のいくつかの作品(例えば「クィーン」)にも表れるように、ナショナル・アイデンティティの再定義、見直しをする一方で、グローバル資本主義を進めてきた新自由主義に取り込まれるという形で収れんしているともいえる。 研究成果は書籍として刊行した。その後、代表者は海外諸国の映画政策について関心を広げ、グローバル社会における映画政策をテーマに、International Journal of Cultural Policyにおける特集の編集担当となる予定である。
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