本研究は、19世紀末から20世紀前半のイギリス文学に見られる居住環境や建築物の表象を研究対象に据えることで、これまで看過されてきた郊外小説を中心とする文学作品群を掘り起こし、同時代の文脈と併置しながらその社会的な意味を明瞭に浮かび上がらせたものである。都市郊外に居住する下層中流階級の凡庸な日常生活を淡々と描いた郊外小説はこの時代に人気を博した大衆文学である。しかし、そこには都市内部の衛生問題や貧困問題から距離をとった生活、核家族化し、孤立化していく郊外居住者の生活観、また19世紀的な市民社会とは異なる個人主義的なコミュニティが垣間見える。現代の都市計画問題にも示唆を与える研究である。
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