反カトリック的な思想の持ち主であると見なされていたジャン・コクトーは、最晩年にカトリックの礼拝堂4堂の全面的な装飾を手がけている。本研究の目的は、それらの礼拝堂の壁面に描かれた不可解な図案の数々に関するテクスト分析と図像解析を通じて、謎めいた彼の宗教観に関する理解を深めることにある。その意味を見極めるのが困難な図案も少なくなかったが、検討を重ねた結果、コクトーの教会美術作品に異端的・オカルト的な象徴性が用いられている可能性を指摘するに至った。そうした意匠は、彼がカトリックに対して抱き続けたアンビヴァレントな感情を物語るものであると考えられる。
|