研究課題/領域番号 |
23652073
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
真野 倫平 南山大学, 外国語学部, 教授 (30257232)
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キーワード | 仏文学 / 演劇 / 科学史 |
研究概要 |
本研究の目的は、20世紀初頭のフランスで誕生した恐怖演劇であるグラン=ギニョル劇に対する同時代の諸科学、とりわけ精神医学の影響を解明することで、文学と社会の相互的影響関係を明らかにすることにある。このように文学の一ジャンルを同時代の科学や社会情勢や風俗などとの多面的な関連において調べることは、文学・芸術・科学・政治・社会を横断する学際的研究の実践として大きな意義を持つ。 研究の2年目に当たる今年度は、演劇関連ならびに同時代の周辺諸科学に関連する基礎資料を引き続き収集した。資料の中に貴重なSPレコードによる演劇の録音があり、これについてはフランス人研究者にトランスクリプションを依頼した。また、8月から9月にかけてフランスへ国外出張に赴き、フランス国立図書館等で図書・新聞・雑誌等の資料調査を行った。また、国内の大学図書館でも資料調査を行った。 最後に、研究の現時点での成果を次のようなかたちで発表した。まず、2012年10月26日、12月15日、2013年3月27日の3回にわたって南山大学地域研究センター共同研究「19~20世紀のヨーロッパにおける科学と文学の関係」シンポジウムにおいて研究発表「グラン=ギニョル劇と精神医学の諸問題」「グラン=ギニョル劇と精神医学の諸問題(2)」「グラン=ギニョル劇と細菌学の諸問題」を行った。さらに、2013年3月刊行の『南山大学ヨーロッパ研究センター報』第19号に論文「グラン=ギニョル劇と細菌学―フランシュヴィル『美しき連隊』を中心に―」を発表した。本論文はグラン=ギニョル劇と同時代のブルジョワ階級の衛生観念の関係を論じた研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画のうち、まずグラン=ギニョル劇ならびに同時代の諸科学に関する資料収集については、前年度中に医学関連図書を中心にある程度まで達成できた。しかし研究が進展するにつれてさらに研究領域が広がったため、今年度は特に細菌学や人類学関連の図書を新たに購入する必要ができた。また、今年度も8月から9月にかけてフランスに国外出張を行い、フランス国立図書館などで資料収集を行った。その際にはフランスの文学研究者や演劇関係者に会って情報収集を行った。以上の研究成果に基づいて研究発表をシンポジウムで3回にわたって行い、その際には他の研究者から貴重な助言を得ることができた。こうして達成した研究成果の一部にもとづいて研究論文1本を執筆し発表した。以上から、当該年度の研究目的はおおむね達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでグラン=ギニョル劇と同時代の科学との関連を研究してきたが、最初の2年間で医学ならびに細菌学関連の調査を大きく進めることができた。25年度はとりわけ以下の二領域に重点を置いて引き続き研究を続ける。第一に、人類学ならびに民族学の領域である。グラン=ギニョル劇には植民地を舞台にした作品が数多くあるが、そこには同時代の帝国主義政策にもとづく一定の人種思想の影響が認められるので、その影響を明らかにしたい。第二に、心霊科学の領域である。カミーユ・フラマリオンやシャルル・リシェなど、当時の多くの科学者が心霊現象に関心を持った。心霊科学は新しい科学の試みの一つであり、グラン=ギニョル劇でも重要な役割を果たした。このようにこれらの領域は、グラン=ギニョル劇というジャンルを理解するうえで、そして20世紀初頭の文学・政治・科学を取り巻く独自の知のありかたを理解するうえで、決して看過することはできない。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし。
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