最終年度には1860年、1900年、1928年の『チューリヒ新報』の紙面を検証した。総ページ数の少ない1860年については、広告面を含めすべての記事を、1900年と1928年に関しては「市況・交通」欄を中心に、それ以外にも経済動向、経済政策に関する記事を対象とした。サンプルとしては一年のうちの三ヶ月分(1月、5月、9月)に絞った。前年度に購入したマイクロフィルムに欠損が見られたため、チューリヒ市図書館でその補足を入手し、併せて関連文献の調査を行った。記事テクストの電子資料化は行わず、該当する記事テクストを研究代表者が直接確認し、関連表現を収集した。その上で、並行する先行研究の検討も踏まえ、前年度の作業を含めて以下の総括を得た。 『チューリヒ新報』の230年以上の歴史を確認する作業の関連で、ヨーロッパにおける新聞の発生について、とくにドイツ語圏での新聞史研究文献を検討した。これにより、日本国内では言及されることが少ない17世紀前後のヨーロッパにおける新聞成立に関する様々な知見が、本研究の背景分析に役立つとともに、今後の研究の発展の可能性をも示した。また、19世紀ドイツにおける新聞言語に関する研究も、新聞文体と通常の書記文体との関連および社会的評価に「言語の民主化」という新たな視点をもたらした。 研究目的として掲げた経済関連の専門言語の変遷の調査結果としては、経済学の知見が反映された記事が確認できず、市場の商取引の慣用に基づく専門言語が量的に中心であることが判明した。その一方で、スイス特有の言語使用が専門領域の記事においても確認されたこと、ドイツ語史の基本的な傾向としての外国語からの借用語の多用からドイツ語固有表現への転換、英語系統の表現の進出が見られたことなどを結論づけた。
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