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2011 年度 実施状況報告書

音韻論的言語類型論における新しい分析概念装置「拡張韻」の提案

研究課題

研究課題/領域番号 23652082
研究機関東京外国語大学

研究代表者

中川 裕  東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (70227750)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワード言語学 / 音韻論 / 言語類型論 / コイサン
研究概要

今年度はコイサン諸語全体における2モーラの語彙的形態素がもつ音韻構造を従来の分析とはことなる新しいアプローチで再分析し、再解釈するため、代表者がもっとも詳細なデータをもっているコエ語族ナロ・ガナ語派グイ・ガナ語群のグイ語およびガナ語の方言連続帯の諸変種を対象にして精査を行った。C1V1C2V2, C1V1V2, C1V1N構造からなるこの語彙的形態素の音韻的ユニット(伝統的な用語では「強語根」)の内部を、素性の分布の非整合性という点から精密に観察しなおした。注目すべき点は、dorsal featuresとnon-dorsal featuresの排他的ともいうべき非対称的な分布であった。これを調音音声学的な視点から説明する解釈を提案した。さらに、この観察と解釈をもとに、C1[Dorsal]--V1[Non-Dorsal]--C2[Non-Dorsal]--V2[Dorsal]という調音位置分布が、拡張韻を設定すると音声学的に納得のゆく対称的分布であることを発見し、このグイ・ガナ事例の一般化モデルをコイサン全般に拡大することができるだろうという仮説をたてた。この仮説を検証するために、トゥー語族(南コイサン)コン語諸方言、ジューホアン語族(北部コイサン)ホアン語、コエ語族コエコエ諸方言の専門家と討議をし、情報の交換を行う段階にはいった。2012年4月には彼らの参加する研究集会に出席しコイサン総合的なフィードバックを得て仮説を敷衍的に整備する計画(実際、この報告書を作成の時点では、計画は実施され、成果をおさめている)。また、東アジアや東南アジアの声調言語の「単音節語」における「韻母」との声調メロディーの領域としての類似点についても専門家と討議をはじめた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

コイサン諸語の強語根に関する再分析と再解釈は、コイサン通言語的な検証の段階にはいっており、しかも、その検証に用いる言語事実は、すべて先端的な調査者達(ベルリン大学のトム・グルデマン、クリストフリート・ナウマン、マックスプランク進化論人類学研究所のリンダ・ゲアラッハ、ファルコ・ベアトホルド、ライデン大学のクリスチアン・ラポルド)からの最新の詳細な資料の提供によるものであり、現時点では、本研究の提案する仮説はおおきな改訂をせずして、その有効性が認められそうである。アジアの声調言語の事例に関しても、もっとも重要な声調の現象についての専門家を研究協力者とすることができており、2012年度以降も協力をひきつづき得られることが確約されている。

今後の研究の推進方策

2011年度に着手はしたものの、比較的進捗が若干遅れ気味だったグイ語パタン~コン語諸方言パタンの変異の連続帯の解明を進める。この若干の部分的遅滞は、2011年度の成果をより精密に発展させて、2012年度にあらためて推進する、コン語諸方言の資料の追加的分析をより円滑にするための時間的余裕を生む。若干の遅滞によって生じた海外の研究者との総合討議のための出張費未使用分は2012年度に繰越し使用することにより、本研究にとってより望ましい発展成果が期待できる:つまり、2011年度の成果の総括とその発展の充分な準備を整え、繰り越し費用を利用することにより、ベルリン大学およびマックスプランク進化論人類学研究所言語学部門を訪問しコイサン言語学者と討議を行うことになる(クリストフリート・ナウマン博士とリンダ・ゲアラッハ研究員の協力を得る)。それと平行して、コエ語族ナロ語を対象とした調査をコン語と同様の方法で行う(ボツワナ共和国在住のナロ語専門家ヘセル・フィセル氏の協力を得る)。さらに、年度内に東南アジア声調言語の事例としてラオ語の1音節語を対象とした拡張韻的分析に着手する(柳村裕氏の協力を得る)。

次年度の研究費の使用計画

コイサン諸語(コン語、グイ語、ナロ語)および中国語とラオ語の資料分析を十分に補足する。そして、それを総合して拡張韻という概念の通言語的比較の装置としての有効性について考察し、その結果を、クリストフリート・ナウマン博士、トム・グルデマン教授(ベルリン・フンボルト大学)にくわえて、ボニー・サンズ教授(北アリゾナ大学)と討議する(場所はベルリンおよびライプツィヒの計画)。このために繰越した研究費を訪問のための旅費としてあてる予定である。さらに、拡張韻という音韻単位の他の言語群への適用についても探求を試みる(現時点での候補はモン・クメール語にみとめられるいわゆる「1.5音節」"sesquisyllabic"の語構造の事例)。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2012 2011

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] The importance of TASTE verbs in some Khoisan languages2012

    • 著者名/発表者名
      Hirosi NAKAGAWA
    • 雑誌名

      Linguistics

      巻: 50-3 ページ: 395-420

    • 査読あり
  • [学会発表] Genetic affiliations of ≠Haba and Tshila2011

    • 著者名/発表者名
      Hirosi NAKAGAWA
    • 学会等名
      The 20th International Conference of Historical Linguistics, 国際会議, ICHL20 Organizing Committee
    • 発表場所
      国立民族学博物館(大阪府)
    • 年月日
      2011年7月29日
  • [学会発表] ≠Haba Tonology: a Preliminary Report2011

    • 著者名/発表者名
      Hirosi NAKAGAWA
    • 学会等名
      The 4th International Symposium on Khoisan Languages and Linguistics, 国際会議, Rainer Vossen, Institut für Afrikanische Sprachwissenschaften
    • 発表場所
      リーツラーン(オーストリア)
    • 年月日
      2011年7月11日

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公開日: 2013-07-10  

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