研究課題/領域番号 |
23652084
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西岡 美樹 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 講師 (30452478)
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キーワード | 国際情報交換 / インド:フランス:アメリカ / ヒンディー語 / 日本語 / 格助詞 / 準体助詞 / 属格後置詞 / 対照研究 |
研究概要 |
本研究は、日本語の属格を表す格助詞もしくは準体助詞の「の」の分析、解明と、インドを中心に多くの母語話者をもつヒンディー 語における属格の後置詞‘kaa’および同じく属格の表現に相当するといわれる接辞‘vaalaa’を伴う表現を対照し、両言語に共通し て見られる普遍的特徴と個別的特徴を記述するものである。 平成24年度は、初年度に作成したアンケートを研究協力者のDr. Narsimhan(University of Delhi)に実施していただき、その結果について、6月の女史の訪日の際に意見交換を行った。 次に、初年度に引き続き、日本語研究関連の学会である 'XXVemes Journees de Linguistique de l'Asie Orientale' に参加した際に広く情報収集を行いつつ、東アジアの諸言語を主に研究している研究者たちとも情報、意見交換を行った。また、知己の研究者Dr. Lahaussois(CNSR)を訪問し、女史から本研究に関わる「名詞化」について情報をいただいた。 9月および翌年1月のインド出張では、先のアンケート調査に参加してくれたインド人の日本語学習者たちとも意見交換を行うことができた。一方、研究協力者のDr. R. Kumar(IIT Madras)にも、ヒンディー語の'kaa'および'vaalaa'の使い分けを深く探るための、インフォーマントになっていただいた。Dr. Koulにもヒンディー語や南アジア諸語での「名詞化」について情報をいただいた。 その他、別の用務で赴いた国内外の出張先でも、随時本研究に関する資料や情報収集を行った。また、研究に必要な資料を、年度を通じて随時充実させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、日本語の属格を表す格助詞もしくは準体助詞の「の」の分析、解明と、ヒンディー語のそれに相当する属格の後置詞‘kaa’およびこれの代替で用いられる接辞‘vaalaa’を伴う表現を対照し、分析することが主眼である。 本研究の二年目にあたる平成24年度は、研究協力者のご助力を得、初年度に作成したアンケートを実施することができた。またその結果について研究協力者の訪日の際に意見交換を行うことが可能となった。さらに、初年度に引き続き海外の日本語研究関連の学会に再び参加したことにより、外国語としての日本語の研究動向について、さらなる情報収集ができた。また、その際言語学を専門とする研究協力者から、本研究に深く関わる「名詞化」の研究について情報を得られた。これにより、個別言語研究が陥りがちな語学分野の中だけで通用する枠組み構築とは違った視点を見出すに至った。代表者の手元にはそれらの研究書がそろっていなかったため、早速そろえることにした。 一方で、南アジア諸語を研究する海外の研究者たち、特にヒンディー語話者のインド人研究者たちとのやりとりを重ねたおかげで、既存のヒンディー語の文法書や教科書(主に非母語話者が使用するもの)では詳述されていない接辞‘vaalaa’を伴う名詞句、そして属格後置詞‘kaa’について、改めて理解を深め、日本語の格助詞「の」、準体助詞「の」との対応関係を詳細に考察することができた。 Web上での研究成果の一般公開に向けた準備は、エクセルでのデータ入力に留まったが、これは次年度に充実させることが可能である。 以上が本研究はおおむね順調に進展していると評価できる理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、昨年度に引き続き日本語の格助詞・準体助詞の「の」、ヒンディー語の属格後置詞‘kaa’および接辞‘vaalaa’に関するそれぞれの文献資料や言語資料を充実させながら、アンケートを点検、修正をする。特に日本語の格助詞・準体助詞「の」を使用した例が網羅的に挙がっているか今一度点検し、漏れ等があれば追加する。また、ヒンディー語と対応させた時に属格後置詞‘kaa’および接辞‘vaalaa’がどのように出現するか、あるいは別の名詞化表現を使うかについて、予想を立てる。 データの客観性、信頼性を上げるため、引き続きインドの研究機関や教育機関で日本語を学ぶヒンディー語母語話者に対しアンケート調査を実施する予定である。これらの作業にあたって、言語学者、日本語学者、ヒンディー語学者の協力を仰ぐ。 追加アンケートが回収できた後に、それらを分析する。上述の通り、特に日本語の例に応じてアウトプットされているヒンディー語の句 との対応については、ヒンディー語の属格後置詞‘kaa’および接辞‘vaalaa’が「の」の代替として使用されているか、使用されていない場合は何が使用されているか、に焦点を当て、綿密な分析および考察を行う。こちらが予想していたヒンディー語以外のアウトプットが出現しているものについては、ヒンディー語母語話者(特に日本語がよくできる)にインフォーマントになっていただき、議論を行う予定である。 今年度は最終年度にあたるため、これまでに得られた結果を国内外で公表できるよう努める。また、研究結果のウェブ上での公表を念頭に、データ蓄積とウェブ上での有効利用法を模索する。 なお、平成24年度のインドでの調査は、別の科研の用務およびワークショップへ招聘された際に便乗して行うことができたため、次年度使用額が発生した。これについては、今年度有効に使用する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に引き続き、言語学でしばしば取り上げられるトピックの「名詞化」に関する資料、さらにヒンディー語の属格後置詞‘kaa’および接辞‘vaalaa’、日本語の格助詞・準体助詞の「の」に関する資料を充実させる。また調査用のアンケートの点検、必要に応じ修正を行う。このため、資料整理やアンケート修正の補助業務に対する謝金が必要となる。 また、インフォーマントに対するアンケート調査をできるだけ多く行う。インドの研究協力者および日本語を学習しているインフォーマント(特に日本語上級を学んでいる者)を交えて、アンケートの項目に関する意見交換、議論を行うため、インドに再び出張する予定である。調査先では、随時新たなヒンディー語の文献、映像資料等も引き続き収集する。このため、調査、資料収集のための旅費、インフォーマントへの謝金等が主に必要となる。 また、これまで得られた研究成果を、国内外の言語学、ヒンディー語学(もしくは南アジア諸語研究)、日本語学のいずれかの関連学会で公表できるよう、本格的に準備する。そのため、専門知識の提供者や英文校閲者等に対する謝金が必要である。 この他に、年度を通じて研究に必要な文房具、トナー、コピー用紙等の物品を随時購入し、研究遂行に支障をきたさないようにする。前年度繰り越した残額(次年度使用額)は、これらの物品費に充当する予定である。
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