本研究は、同一の場面が与えられた時、それぞれの言語がどのような表現を選択していくのかを問う、表現様相論の観点から「日本語と韓国語における直訳できない構造」について考察を行ったものである。 (1)日本語の小説とその小説の韓国語翻訳書を選定し、入力及び誤入力の確認作業を行った。 (2)上記の電子化したデータをもとに日本語と韓国語の対訳コーパスを作成した。 (3)上記の日韓対訳コーパスを検討し、一対一的に対応しない用例を抽出した。 (4)上記の用例の分析を通して、今までの日韓対照研究においてほとんど注目されてこなかった日本語と韓国語におけるいくつかの表現様相の差異を見つけることができた。(主語の出現における表現様相など) (5)千葉大学にて行われた「外から見た日本語-対照研究は何か-」と題するリレー講義と、駐大阪韓国文化院「世宗学堂」主催の「2011年度韓国語教師研修会(福岡)」を通して研究成果の一部を紹介した。 本研究は、可能性として<現れうる表現>ではなく<実際現れた表現>を対象に、「非文か否か(言えるかどうか)」ではなく「自然か否か」に焦点を当てることで、日本語と韓国語に存在する、いくつかの表現様相の差異を見つけることができた。これは、文法的な類似性に隠れて今までの日韓対照研究においてなかなか表面化もしくは明示化できなかった言語事実が明らかになったという意味で示唆するところが多い。また、今回の結果を通して、表現様相論の観点からの日韓対照研究の意義・重要性が裏付けられたとも言えよう。日本語と韓国語は文法的な類似性を持つが、表現様相論の観点から両言語を見たとき、表現のあり方の違いは相当なものである。本研究で指摘された日本語と韓国語における「直訳できない構造」は、今後もう少し研究を深めれば、日韓翻訳や、言語教育、辞典編纂など、これら二言語間にまたがるあらゆる領域に、その活用が期待される。
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