研究課題/領域番号 |
23652099
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岩井 康雄 大阪大学, 日本語日本文化教育センター, 教授 (30273741)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | VOT / 日本語学習者音声 / 破裂音の有声/無声 |
研究概要 |
本研究では、日本語における破裂音の「有声」/「無声」の対立を、非母語話者の知覚を利用して明らかにすることを目的としている。先行研究において日本語破裂音の有声性に関してVOTが中心的な指標として働いていない可能性が示唆されており、本研究では改めて日本語破裂音の「有声」/「無声」の特徴を捉え直したいと考えている。 平成23年度は特に研究計画の2点目に挙げた「非母語話者個々人の生成・知覚特性の分析」を中心に研究を進めた。朝鮮語、広東語、タイ語、ジャワ語、スンダ語、ブルガリア語を母語とする話者各1名(計6名)について母語並びに日本語の生成と日本語母語話者(1名)による発話、自身の日本語発話、他の学習者(自身を除く5名)による日本語発話の聴き取り調査を行った。予備的な調査段階であるため、何らかの特性や傾向を求めるまでには至っていないが、1)有気/無気の対立を持ち、有声/無声の対立を持たない朝鮮語、広東語話者、2)有声/無声の対立を持つジャワ語、スンダ語、ブルガリア語話者、そして3)有気/無気の対立に加え、有声/無声の対立をも持つタイ語話者という、それぞれの母語の音韻体系からだけでは捉えられない差異が存在する可能性を見いだすことができた。 これまで非母語話者の知覚上の「問題」(特徴)は、単なる誤聴、習得レベルの低さと捉えられ、学習者自身の問題とされ、日本語自体の持つ特徴の解明に向けて、学習者の誤用(誤聴)は積極的には利用されていない。しかし学習者の知覚を単なる誤りとするのではなく、積極的に利用することで、これまで見過ごされていた日本語破裂音の「有声」/「無声」の特徴を捉える可能性が示されたものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の中では、本研究課題初年度である平成23年度は、1)日本語母語話者の音声収集、2)非母語話者個々人の生成・知覚特性の分析を並行的に進める予定であった。1)については、世代差、地域差を考慮した音声収集を行う予定であったが、本研究の中心が2)にあげた特性を利用して日本語における破裂音の「有声」/「無声」の対立を明らかにすることであることから、2)を中心に進め、次年度以降の実施予定であった非母語話者による日本語の知覚実験を前倒しして行うこととした。更に加えて研究計画上は明確には指摘していなかった、自身の発話(非母語話者による学習言語である日本語の音声)に対する知覚感度についても予備的に調査した。言語教育の中で扱われる「自己モニタリング」という手法からヒントを得てのものである。 以上、初年度の達成度としては、一部に次年度以降の計画との入れ替えをした部分はあるが、概ね計画通りに達成されているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、研究課題を遂行していく。本年度前倒しして実施した知覚実験を量的に増やしながら、本研究課題の中心となる2)非母語話者個々人の生成・知覚特性の分析を進めていく。更に3)日本語の知覚実験を本実験として行うために質的な修正が必要か否かを検討した上で、本実験として実施し、被験者の知覚様態をその生成・知覚特性と照らし、何らかの相関を見いだすことができればと考えている。本年度実施予定であった1)日本語母語話者の音声収集については、当初予定にも記していたように公開されている音声データベースの利用を中心に考えていくつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
知覚実験の被験者を増やすため、被験者に対する謝金と実験補助者に対する謝金の支払いを予定している。また、音声資料(コーパス)も購入予定である。
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