研究課題/領域番号 |
23652112
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
堀尾 佳以 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (10513880)
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キーワード | 留学生 / チューター / コミュニケーション |
研究概要 |
具体的な内容としては、大きく3点ある。 1つ目は、留学生と日本人チューターのコミュニケーション「回避ストラテジー」を、録音資料より分析した。この「回避ストラテジー」を明らかにする事で、ミスコミュニケーションを未然に防ぐ方法を示す事が出来た。特に、「再確認」「推測」ともに、意思疎通を円滑に進め、誤解を生む要素を取り除くことでミスコミュニケーションを「回避」する事が分かった。つまり相手の気持ちや伝えたいことを「理解しよう」という心がミスコミュニケーションの「回避」に繋がっているのである。 2つ目に、異文化間理解から相互理解を促すための第一歩として、「どんな場面で習慣や考え方の違いを感じたか」といった調査を行った。その結果、「遅刻」「金銭感覚」「不満を伝える」ことに大きな違いがある事が分かった。中でも「おごる」事についての考え方の違いにより、留学生と日本人相互に誤解を生む原因になる事も明らかとなった。 この調査結果を受けて、3つ目の「留学生が日本で感じた不思議な事、困った事、驚いた事」のインタビュー調査を実施した。本来なら言いにくい事ではあるが、協力者に聞き取りをして、日本人と接する際にどのような点に気を付けるべきなのか、問題点を洗い出す事ができた。 以上の結果から、本研究において「回避ストラテジー」を明示した事に意義がある。異文化間理解を深める際に立ちはだかる壁を明らかにした事も、今後の指導教材作成に重要な資料となる。これらの調査結果は日本語教育学会(国際大会)および東アジア日本語教育日本文化研究学会で発表した。日本語教育だけでなく、様々な分野の先生方と意見交換を行うだけでなく、実体験を聞く事も出来た。今後の研究に反映させる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終年度に異文化間相互理解のための教材および日本語初級教科書作成を目指している。そのための基礎研究として①ミスコミュニケーション回避ストラテジーの解明②アンケート調査とインタビューを実施し、結果を得る事が出来た。これまでの結果を集計し、場面別に起こりうる問題をふまえた教材を作成するための、資料収集が十分にできた。 また、チューター制度をより良いものにするために、留学生・チューター双方の求めるものについても調査を行った。他大学の状況を聞き取り調査し、様々な方法で制度改革が進んでいることも分かった。それぞれの良い部分を合わせ、留学生支援に繋げられるチューター制度を提案し、更なる機能向上を目指す。 現段階で教材作成が可能であり、チューター制度改革のための基礎調査も実施できた。最終年度の研究活動で、これまでの研究成果をまとめた教材を発行することにより、社会に還元していく。
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今後の研究の推進方策 |
チューター制度そのものが消滅し、「学生サポーター」制度を取り入れた大学も出てきており、多様化が進んでいる。そのため、従来のチューター制度を改革するだけでは問題解決ができない場合も出てくる。 また、異文化間相互理解の基礎研究を進める上で、留学生・チューターの協力を得るのは容易ではない。特に仲が悪い場合にミスコミュニケーションが起こりやすい。しかし、「会いたくない」「仲が良いわけではないので話す事がない」といった理由で調査できなかった。調査対象者の人間関係構築の難しさを感じた。 また、研究計画書の段階では中国・韓国の留学生に絞ったが、調査を進めていくうちに他国からの留学生でも同じような場面に遭遇する事が分かった。つまり、日本で起こりうる問題は、留学生の国籍によるのではなく、普遍的である可能性がある。 以上のような問題は散見されるものの、実例を示した異文化間理解促進のための教材や、チューター教育に使用する教材を作成する。先輩達の経験から得た教訓を活かし、留学生とチューターの、ひいては日本人との円滑なコミュニケーションに貢献したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでの調査・研究結果を反映した教科書を作る。 具体的には、日本語学習者向けの初級・中級用教材を作成・印刷する。日常会話とそれに即した文法を学ぶだけでなく、ミスコミュニケーションが起こると考えられる場面を設定し、実践的な教科書とする。 次年度の研究費は、主に教科書の印刷代に使用する。
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