研究課題/領域番号 |
23652115
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
初鹿野 阿れ 名古屋大学, 国際交流協力推進本部, 特任准教授 (80406363)
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研究分担者 |
山崎 けい子 富山大学, 人文学部, 教授 (50313581)
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キーワード | 他者開始修復 / 非母語話者 / 母語話者 / 会話分析 |
研究概要 |
昨年度から引き続き、録画・録音したデータから修復が行われている箇所を抽出し、記述・分析を行った。 データ中に現れた修復には、自己開始修復と他者開始修復がともに観察された。母語話者同士の修復は比較的単純なやり取りで、修復が解決に至る過程が多く見られたが、他者開始修復のひとつである「理解候補の提示」により、自分の理解を確かめ、相手がそれを承認/修正するといった比較的複雑な過程も幾つかみられた。一方、非母語話者を含む会話では、発話者の言葉探しのように自己開始された修復が、他者によるさらなる修復開始により修復されていく過程、また、他者開始された修復自体が、うまく言葉が出ない、適切な表現が見つからない等の自己開始修復として現れ、それが修復されていく過程等、非常に複雑なやり取りが観察された。 様々な事例の中から、今年度は、特に母語話者の発話に対し、非母語話者が始めた他者開始修復が解決に至る過程に焦点を当てた。それらの中に、非母語話者の他者開始修復に対して、母語話者が過剰に、ゆっくりと易しい言葉で修復を行ったり、すでに非母語話者が理解したことを示しているにもかかわらず、母語話者が修復を続けているケースがみられた。このような修復は、おしゃべりというやり取りの中で、参加者(母語話者)が他の参加者(非母語話者)を知識のない者(日本語があまりできない者)として位置付けていくプロセスであるともいえる。ゆっくりと話したり、念を押すような話し方は、力の足りない非母語話者にとっては手助けとなり、相互の意味理解を促進するものであるが、この例のように母語話者が非母語話者と話す際、配慮が必要であると思われる事例を明示できたとこは意義があると考える。 この結果は平成24年8月に行われた日本語教育国際研究大会にて発表した。 さらにデータを増やすため、今年度も非母語話者1名を含む3人の会話を1時間X2組収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データに現れた個々の事例の分析は概ね順調に進んでいる。昨年度収集したデータから、修復が起こっている部分を抽出し、その事例をすべて概観した上で、分析の焦点を母語話者と非母語話者が行う他者開始修復に当てることにした。その理由は、他者開始修復のほうが、問題解決に至るまでの相互行為が複雑で、その過程の分析は母語話者にとっても非母語話者にとっても有意義であると考えたからである。 現在、個々の事例の分析結果に基づき、修復過程の類似例をまとめ、会話の流れの中でその特徴を捉えようとしているが、パターンが多岐に渡っているため、すっきりと納得のいくまとめに至っていない点が、少し遅れていると言える。 また、一つの会話例に現れる修復数が会話の参加者により大きく差があり、総数も予想より少ないことが、類似例をまとめるところまで進んでいない理由である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、非母語話者の発話に対して、母語話者が開始した他者開始修復に焦点を当てる。また、3人のやり取りの中で、一つの修復に3人が関わっている事例を深く分析したいと考えている。 他者開始修復は、ある発話が、聞き手にとって聞き取れなかった、理解できなかったというトラブルを解決するために始められるものである。そのため、3人の会話であっても、2者間の問題として顕在化する場合が多い。しかし、幾つかの事例では、ある参加者の発話に対し、2人がほぼ同時に修復を始めたり、ある参加者の発話に対して、聞き手が、別の(トラブルソースの発話者ではないもう1人の)参加者に、他者開始を行っている例が観察された。 これらの事例を分析した結果を学会で発表したいと考えている。その上で、昨年度の結果も合わせ、非母語話者が含まれる会話に現れる他者開始修復をまとめ、教育への応用の可能性を考えたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の直接経費50万円は、研究者2名が海外で成果発表するための出張旅費として使用する。今年度は予定していた日本語教育国際研究大会が行われないこととなったため、別の大会にエントリーする予定である。北米かヨーロッパで行われる大会を予定しているため、1人25万ずつを航空運賃、滞在費等として使用する。
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