研究課題/領域番号 |
23652140
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山下 徹 熊本大学, 社会文化科学研究科, 教授 (70249738)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ライティング / 自律協調学習 / 重層的デジタルポートフォリオ / メタ認知的意識 / 自己効力感 / テキストマイニング |
研究概要 |
平成23年度は、以下の研究活動をパイロットスタディとして行った。 学習支援システムであるCMS(Course Management System)に、学生からオンラインで提出された推敲プロセス毎の学習成果(英文ライティングのドラフト及び最終稿)をデジタル形式で記録した(ワーキングポートフォリオ)。また、ワーキングポートフォリオについて自己評価、相互評価、再度の自己評価の順で評価活動を行ない、評価ポートフォリオとして保存した。計画・モニタリング・コントロール・評価等のメタ認知方略、推敲方略を含むライティング方略の使用等に関するメタ認知的意識及び自己効力感について、評価ポートフォリオに記述させた。これらの記述の分析はテキストマイニング・プログラムを使用して行った。結果として、相互評価は次の自己評価におけるメタ認知的意識、自己効力感の変化に反映されることが判った。また、方略の使用に関するメタ認知的意識、自己効力感の変化は、推敲プロセスの各段階で見られた。さらに、自己効力感とメタ認知的意識は互いに影響を与えながら変化する関係にあると考えられる。これらの点は、今後の更なるデータ収集・分析により検証する必要がある。CMS上でのメタ認知の学習者への可視化と重層的ポートフォリオを参照した、CMS上での議論活動と協働的メタ認知の詳細な分析は、翌年度に行う予定である。 メタ認知・自己効力感の分析に適したテキストマイニング・プログラムに関しては、単語頻度分析とともに、注目語と他の単語との関係をネットワーク図で表すことや、時系列分析も可能であり、電子掲示版のコメント分析に必要な機能も備えていることを条件に選定した。また、学習者毎の時系列の重層的ポートフォリオをファイルサーバーに記録し、オンラインで共有・評価するシステムの詳細な検討を行った。このシステムは翌年度に構築・運用する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は、パイロットスタディとして、大学での英語ライティングの推敲活動、自己・相互評価活動の結果をポートフォリオとして記録し、テキストマイニング・プログラム(単語頻度分析等)を使用して、メタ認知的意識、自己効力感の変化を分析した。結果として、推敲に関わる計画・モニタリング・コントロール・評価等のメタ認知方略、推敲方略の使用を、評価ポートフォリオの記述から抽出・分析できた。相互評価は次の自己評価におけるメタ認知的意識、自己効力感の変化に反映されることが判った。また、方略の使用に関するメタ認知的意識、自己効力感の変化は、推敲プロセスの各段階において見られた。また、自己効力感とメタ認知的意識は互いに影響を与えながら向上していく関係にある。これらの点は、翌年度の更なる実践により検証できると考えられる。 テキストマイニング・プログラムの評価・選定においては、KeyGraph、RMeCab等を含めた、いくつかのプログラムを検討した結果、TMS(Text Mining Studio)を採用した。このプログラムは、名詞で表される対象物の価値に関する表現を効率的に抽出・分析できる(自己・相互評価の内容を分析可能である)点で利点がある。重層的なポートフォリオの検索・参照を可能にするシステムの開発を検討したが、システムの構築・運用は翌年度に行う予定である。検討結果として、データベースソフト(Filemaker Pro等)によるシステムの構築よりも、近年開発が進展している Acrobat X ProでPDFポートフォリオを作成・記録し、学習者がオンラインで共有し、注釈機能でレビュー・評価する方が、研究目的を効率的に達成できることが判った。設置するファイルサーバーに、学習者毎のポートフォリオを、時系列で一覧できるPDFポートフォリオとして記録し、CMS上で参照・議論する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
翌年度は、当初の研究実施計画を一部変更し、以下の点を中心に実施予定である。 個人のワーキング・評価ポートフォリオをファイルサーバーに記録する。Acrobat X Proの注釈機能により、これらのポートフォリオのオンラインでの相互評価の活動を行ない、ピアの評価ポートフォリオとしてファイルサーバーに保存する。学習者は、評価ポートフォリオのコメントに基づき、ドラフトの推敲と再度の自己評価を行う。最後に、学習者毎のワーキング・評価ポートフォリオを時系列で一覧できるPDFポートフォリオとして、ファイルサーバーに記録する。 TMSで可視化したメタ認知をCMS上で経時的に表示し、ルーブリック(評価指標)の認知的目標との関係で、学習者がメタ認知の変容を振り返る活動を行う。また、PDFポートフォリオを検索し、CMS上で議論を行い、結果をディスカッション・ポートフォリオとして記録する。これらのポートフォリオを活用した、推敲能力の評価、TMSによるメタ認知・自己効力感・協働的メタ認知の変化と相互関係の詳細な分析、自己効力感の事前・事後アンケートを行う予定である。また、学習者への質問紙調査も実施し、最終的に、CMSと連携した重層的なデジタルポートフォリオの活用が、大学レベルでの英文ライティングの自律協調学習の支援において有効であることを検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
最近の関連技術の動向に基づき、当初の計画を見直した結果、データベースソフトによるシステムの構築よりも、翌年度において、Acrobat X Proを活用した方法が、より効率的に目的を達成できる見込であることが判り、システム開発等の人件費・謝金が未使用となった。また、システム開発等の費用も少なくなる見込であり、未使用経費の一部は翌年度の人件費・謝金と合わせて、ファイルサーバーの構築と運用、CMSとファイルサーバー間の連携等に使用する計画である。物品費は主にTMSの購入に充てられたため、ファイルサーバー、ソフトウエア(Acrobat X Pro等)は、平成23年度の物品費、人件費・謝金の未使用経費の一部と翌年度の物品費とを合わせて購入する予定である。調査・研究旅費は未使用であったが、翌年度の調査・研究旅費と合わせて使用する予定である。その他の未使用経費は、翌年度のその他の経費と合わせて、研究成果報告書の印刷、学術雑誌への投稿、機器修理費用等に充てられる予定である。
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