研究課題/領域番号 |
23652146
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
谷 みゆき 中央大学, 法学部, 助教 (50440201)
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研究分担者 |
青木 敦子 聖心女子大学, 文学部, 非常勤講師 (70440203)
阿久津 純恵 立教大学, 外国語学部, 講師 (20460024)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 英語教育 / 言語学 / 事態把握 / ライティング |
研究概要 |
本研究の目的は、(1)英語話者と日本語話者の事態把握の違いが、日本語話者の英語学習および英語力にどのような影響を与えているかを実証的に明らかにすること、さらに(2)日本語を母語とする英語学習者が「英語らしい」英文を書く力を身につけるための教育方法および教育教材を開発することの2点であるが、このうち平成23年度の研究は、当初の予定通り(1)に重点を置いた。 平成23年度の研究実施計画の1点目である「先行研究分析と作業仮説設定」については、日本語話者の「主観的事態把握」および英語話者の「客観的事態把握」の傾向性を指摘した先行研究を発展させるため、英語と日本語の「移動表現」の構造的違いに着眼し、その違いが両言語話者の事態把握の傾向性に起因するものであることを指摘した。「移動表現」に関しては、その構造的違いを指摘する研究は多いものの、要因にアプローチする研究はいまだ少ないのが現状であることから、「事態把握」の傾向性を主軸に考察を行ったという点で意義があったものと考える。本考察の成果については、『中央大学英語英米文学(第52集)』にて発表した。 2点目の「他のアプローチとの比較」については、高校生向け学習参考書に掲載されている誤った英語表現例(Common Error)をいくつかの文法項目に分けて整理し、それらが日本語話者の「主観的事態把握」を反映したものと考えられるか検証した。その結果、これまで単なるリストとして提示されることの多かったCommon Errorに相関関係が(特にIの多用、thereの誤用などの主語の選択において)見られ、「主観的事態把握」の傾向性に影響を受けているとの結論に至った。考察内容は平成23年7月国際語用論学会(マンチェスター大学)にて口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究実施計画の1点目である「先行研究分析と作業仮説設定」に関しては、日英語話者の事態把握における傾向性の発現の1つとして、「移動表現」における構造的違いについて考察を行い、先行研究を発展させることができた。しかし、当初計画していたコーパスや文学作品、インフォーマントテスト等を用いた「網羅的な」比較考察は、震災の影響による研究実施期間の短縮や、担当者がCommon Error分析も同時に行っていたことなどにより、平成23年度中の実施が困難となった。この点については、平成24年度から事態把握研究において実績を持つ研究者を研究分担者として追加することで、問題の解決を予定している。 2点目の「他のアプローチとの比較」に関しては、研究を概ね計画通りに実施することができた。英語教育分野との関連では、学習参考書に掲載されているCommon Error例に認知言語学的考察を加え、文法項目横断的に事態把握の傾向との関連を見つけ、国際語用論学会において口頭発表を行った。World Englishesの1つとしての日本語話者による英語という点においては、平成23年度の考察対象とはせず、これまでに指摘されているCommon Errorの分析にとどまらない、より実際的な分析が重要であると判断し、平成24年度に予定していた学生のライティングデータ収集を優先的に実施した。青山学院大学、聖心女子大学、中央大学、明治大学、立教大学の学生を対象に、パラグラフライティングの課題を課し、約150人分のデータを集めた。データベース化の作業は平成23年度末時点ではまだ終了しておらず、その考察および成果発表は平成24年度に実施の予定である。 平成23年度の研究計画としては次年度に持ち越す研究課題もあるが、前倒しで実施した部分もあり、研究全体で見れば十分な進捗状況であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、従来言語学的枠組みで論じられてきた事態把握に関する理論を英語教育に適用するという点において意義があり、この学際的目的を達成するために、言語学、外国語教育学、アジア研究を専門とする英語教育に従事する研究者で構成された研究組織を有する。今後もそれぞれが他分野における研究の進展を視野に入れながら、その理解と成果を英語教育の発展につなげることを目標に本研究を推進する。平成24年度における研究推進の方策としては特に以下の3点が挙げられる。 (1)研究体制の変更:平成23年度、特に研究期間初期においては、先行研究の再検討や、事態把握の傾向性が及ぼす影響についての考察など、言語学的理論に関する知識の必要性が高かったため、作業が言語学を専門とする研究代表者に集中することが多かった。この問題点を解決するため、平成24年度以降は事態把握に関する研究実績を有する研究者を研究分担者として追加し、言語理論面の補強を図る。さらに、ワーキンググループを2つ作って作業を分担することにより、文法項目横断的な考察を効率よく実施できる体制を整備する。 (2)前年度の研究の遂行と完了:平成23年度に十分な進捗がなかった、事態把握に関する先行研究の再検討および英語と日本語との比較考察については、すでに平成24年度から研究に参加する研究者分担者との連携を進めており、英国認知言語学会(平成24年7月、ロンドン大学)にて成果発表を予定している。また、平成23年度に行った学生ライティングデータのデータベース化を完了し、それに基づいた分析発表も行う計画である。 (3)研究結果の発信:分析内容は適時学会報告または論文として発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額の360千円は、事態把握に関する先行研究の発展を目的とした英語と日本語との比較考察結果について口頭発表する際に使用する旅費、および考察時に使用するネイティブスピーカーを対象としたインフォーマントテスト協力謝礼として、平成23年度の支出を見込んでいたものである。研究分担者追加による研究体制整備により、平成23年度に計画に沿って研究を実施できなかった部分を翌年度に実施するために、使用する予定である。 このほか、平成24年度使用分として直接経費1,000千円を請求予定である。当初の研究計画に従い、ライティング課題データ分析の際に実施する学生インタビューへの謝礼や、ライティング教材開発の際のネイティブチェック、データ収集を目的とした英語ネイティブスピーカーインフォーマントへの謝礼、またデータ分析結果報告およびライティング教授法実施報告のための旅費として支出予定である。
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