研究課題/領域番号 |
23652150
|
研究機関 | 岡崎女子短期大学 |
研究代表者 |
小宮 富子 岡崎女子短期大学, 経営実務科, 教授 (40205513)
|
研究分担者 |
石川 有香 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40341226)
|
キーワード | 日本人英語 / Innovation / 国際英語論 / 国際発信力 / コーパス |
研究概要 |
平成24年度は「日本人英語におけるinnovation」の同定に繋がる研究として、日本人英語の文法特徴、語彙、談話レベルでの傾向などの分析をめざし、大きく二種類の研究を行った。一つはアジア(香港、パキスタン、フィリピン、シンガポール、中国、インドネシア、日本、韓国、タイ、台湾)の大学生英語学習者1300人のエッセイを収録した学習者コーパスICNALEを用いて①他のアジア諸国のESL/EFL使用者と比較して、日本人学習者が高頻度で使用する語連鎖の抽出を試みるとともに②英語習熟段階での、他のアジア諸国の英語学習者と日本人英語学習者の高頻度語連鎖の相違点を分析した。二つ目は、インド英語と日本人英語の文法・語法上の比較に関する調査研究であった。前者の研究成果は「語連鎖分析による学習者グループ特性の探索―学習者の習熟度と言語的文化的要因の交差ー」(平成25年)と題する論文等の形で発表した。また、後者については、平成25年8月の大学英語教育学会第52回国際大会での研究発表を予定している。 24年度の研究の意義は、日本人英語を主として他のアジア英語と量的質的に比較することにより、①母語話者英語(ENL)と日本人英語の相違②アジアのESLと日本人英語の相違③アジアのEFLと日本人英語との相違について、いくつかの重要な事実を確認しえたことである。日本人英語とアジアのESLやEFLには、共通性もかなりあること。その一方で、他のアジア諸国のEFLと比較して、日本人英語にはモダリティや対人関係性を反映する語連鎖の頻度が高いこと、また、その特徴は習熟段階に達しても見られるという点で、他のアジアのEFLとは異なる特異性を持つことなどが判明した。 24年度の研究成果は、モダリティを重視する日本人英語が独自的な発展(イノベーション)の可能性をもつことを示唆している点で、重要性をもつ。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究は、日本人英語のinnovationの可能性を同定する基盤として、他のアウターサークルやエクスパンディングサークルの英語変種との比較の中で、日本人英語の文法特徴や語彙特徴・談話特徴などを抽出することであった。 アジア13か国の学習者コーパスであるICNALEを用いた英語エッセイの分析および日本人英語とインド英語の比較からは、アウターサークルの英語とエクスパンディングサークルの英語に共通する諸特徴がみられ、それらがEnglish as a Lingua Francaのcore になりうる特徴として、日本人英語においても「中核的」用法となりうる可能性が示された。その一方で、コーパス分析の結果は、日本人英語に特有の高頻度の語連鎖があること、また、それが英語学習の習熟度に影響されにくいことを示しており、それらが今後日本人英語に特徴的な用法としてInnovationに発展しうる可能性を示唆している。 日本人英語と他のESLやEFLとの共通点が非母語話者英語の中核的用法となる可能性が見えてきたこと、また、日本人英語のモダリティ重視が語連鎖の頻度にもみられるという事実は、日本人英語において「今後、モダリティを重視する英語表現が増加するのではないか」とする本研究者の仮説を一定程度支持するものであり、研究の進展を示す成果であると言える。 24年度の日本人英語の特徴に関する英語学的な研究の成果により、「日本人英語の特徴を自覚し、Innovationとして受け入れる姿勢が日本人英語学習者の国際発信力に肯定的な影響を及ぼしうるかどうか」に関する調査にむけての準備体制が整ったといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度の研究では、「モダリティに関連する英語表現が日本人英語において増加する」という仮説を支持する一定の結果が得られた。また、他のアウターサークルやエクスパンディングサークルの英語変種と共通する言語特徴が日本人英語においても中核的用法となりうる可能性を示す調査結果が得られた。これはEnglish as a Lingua Franca (ELF)のcoreとなりうる部分であることも予測される。 今後も、日本語の特徴であるモダリティを反映した英語使用事例を継続収集するとともに、日本語の主題中心性(及び「場」の概念の重視)が日本人英語に反映している事例の収集分析にも力を入れる。また日本人英語の名詞修飾部の文法特徴と日本文化の関係についても分析を進める予定である。これまでの研究成果のまとめとして、日本人英語において中核となる用法、増加すると思われる用法、減少すると思われる用法の予測を行い、日本人英語における独自的用法(innovation)の傾向とその背景的理由の分析を行うとともに、将来的なinnovationを予測させる用法の一覧化をめざす。 また、25年度で最も重要な研究視点は、このような日本人英語のinnovationの可能性を自覚することが、日本人英語学習者の国際発信力に肯定的な影響を与えうるか否かの確認である。今年度は日本人英語のinnovationに関する研究成果をベースに、日本人大学生を対象とする英語教育の視点からの調査を進める予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究費は主として、物品費と旅費に使用する予定であり、研究代表者の小宮は前年度未使用分と合わせた研究費574,211円のうち、国際学会(English as a Lingua Franca 第6回国際大会:ローマ)への参加旅費に約32万円、大学英語教育学会第52回国際大会(京都大学)への旅費に3万円、図書とその他の物品の購入に約20万円、その他に2万円の使用を予定している。研究分担者の石川は未使用分を含む約106,248円を図書の購入その他に使用する予定である。
|