研究課題/領域番号 |
23652152
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田口 正樹 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (20206931)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 岡松参太郎 / 台湾 / 旧慣 / ドイツ / ベルリン / ハレ / 民法 / 留学 |
研究概要 |
本年度は研究初年度であり、岡松参太郎と台湾旧慣調査に関する研究状況の把握と基礎資料の調査につとめた。基礎資料としては、早稲田大学図書館所蔵の岡松家旧蔵文書のうち、欧州留学関係の部分を精査して、留学中の岡松の行動を出来る限り明らかにし、彼が西洋法学から何を受け取ったかを検討する基盤を得ようと試みた。その結果、岡松がベルリン大学だけでなくハレ大学にも在籍して聴講したこと、留学の目的であった民法と国際私法だけでなく、公法も含む広い範囲の講義を受講したこと、学期休みなどを利用してたびたび各国巡検に出ようとしていたこと、ドイツの教授の中ではベルリンのヨーゼフ・コーラーおよびハレの刑事法学者フランツ・フォン・リストと近い関係を持ったこと、などを確認することができた。またこの調査に関連して、岡松家旧蔵文書の研究を牽引している浅古弘教授(早稲田大学)とも意見交換を行うことができた。岡松の欧州留学に関しては、ドイツにも赴いて調査を行い、ベルリン大学文書館およびハレ大学文書館において、学生登録簿などの資料から、岡松の在籍等を確認した。ハレでは、刑法学者岡田朝太郎が、岡松とともに学生登録していたこともわかり、彼ら2人がともにベルリンからハレへ転学したことが明らかになった。その後、台湾にも赴き、台湾法史の代表的研究者である王泰升教授(国立台湾大学)、岡松とドイツ法学との関係に詳しい呉豪人教授(輔仁大学)と意見交換を行った他、国立政治大学の江玉林教授のゼミナールにおいて岡松の欧州留学について研究報告し、江教授および陳恵馨教授(国立政治大学)をはじめとするスタッフ・学生と議論をした。こうした調査と検討をふまえて、岡松の欧州留学中の行動をまとめた研究ノートを現在準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎資料である岡松家旧蔵文書の精査とドイツでの資料調査により、岡松の欧州留学に関して、これまで十分知られていなかった部分も含めて明らかにすることができ、彼がドイツ法学を受容したチャネルについて認識の精度を高めることができた。国内外の研究者との意見交換と議論により、研究課題に関する視野を広げることができた。とりわけ、台湾での議論によって、台湾社会の側から見た岡松と旧慣調査のイメージについて、認識を深めた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の調査の結果、岡松によるドイツ法学受容の経路として、当初想定していたコーラーやポストに加えて、ベルリン大学のデルンブルク、ギールケ、エック、ハレ大学のリストといった学者にも注目すべきことが明らかとなった。そこで、彼らの慣習法論なども調査したうえで、それをふまえて岡松の著作を読み込んでいく。また、ドイツで岡松が入会した「比較法・国民経済学国際協会」についても、更に詳しく調査をすすめ、岡松に与えた影響等を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の調査の結果、岡松によるドイツ法学受容の経路として、当初想定した以外に、何人かの学者を考慮すべきことが明らかになり、岡松が入会した「比較法・国民経済学国際協会」についても調査する必要が明らかになってきたところ、これらの点に関してどのような資料・文献を収集すべきか、またどのような文書館を訪れて調査すべきか、少し時間をかけて決定するのがより適切であると思われたため、今年度予算の一部を次年度に使用することになった。この分は、新たに調査が必要となったドイツ人学者の関連文献の購入・複写と、新たに訪れる必要が生じたドイツの文書館での調査経費として使用する。以上のような変更を含めて、次年度はドイツ法学・日本近代法史・台湾史関係の必要な文献等の収集、日本国内の岡松・台湾史研究者との意見交換や成果発表、ドイツでの資料調査、台湾での意見交換と研究発表などを行っていく。
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