本年度は研究の最終年度であり、研究結果のとりまとめと成果報告につとめた。具体的には、前年度までの、「岡松参太郎文書」の調査や、19世紀ドイツ法学史の検討、日本植民地期およびそれ以前からの台湾の社会構造に関する知識の拡充などをふまえて、岡松自身の著作・論文・意見書などを精査し、ドイツ法学との関係から見た、「植民地法学者」岡松参太郎像の解明につとめた。 結果としては、近代東アジアの法学者としての複合的な像が浮かび上がった。まず岡松は、法律家のイメージと役割という根本的なレベルで、サヴィニーに始まるドイツ歴史法学の深い影響を受け、法律家が民族の法的確信を代表するという歴史法学の見方を東アジアにおいても現実化しようとした。しかしその際、岡松は、東京帝大における彼の師であった穂積陳重の法系論に従い、台湾の旧慣をドイツ法学の概念で記述することに疑いを示さなかった。しかも実際に『台湾私法』にまとめられた旧慣は、一方で清朝時代の制定法などを含み、他方で法的効力を認められない慣行をも含む点で、歴史法学が重視した慣習法とは異なっており、とりわけ慣習法と単なる慣行との区別が詰められていない点が特徴的である。このような慣習法とのずれは、国家法を法の中心に置く東アジアの伝統的な法観念と親和的であると思われる。 岡松の台湾旧慣調査については、今年度2回にわたって台湾に渡航して、台湾の法学者とも議論する機会を持ったが、特に2014年2月の渡航の際には、国立政治大学法律学系にて研究報告を行い、陳恵馨教授、江玉林教授らと岡松と台湾との関係について意見を交わした。また岡松に関する研究を多数公表している呉豪人教授(輔仁大学法律学系)とも、岡松とドイツ法学との関係などについて議論した。
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