研究課題/領域番号 |
23652155
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
麓 慎一 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (30261259)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | アイヌ / 昆布 / 中国商人 / 上海 / 長崎 / ウラジオストック / 函館 / 煙台 |
研究概要 |
「研究実施計画」の内、第二の北海道立文書館における海産物関係資料の調査と撮影については十分に計画を達成することができた。特に「昆布改良関係書類」〔10148文書〕や「函館広業商会処分ノ件」〔07270文書〕などの重要資料だけでなく、関係資料も膨大に収集することができた。また、東京大学経済学部が所蔵している土田家文書からも関係資料を収集することができた。第三の新聞資料および雑誌については、『北水協会報告』だけでなく『水産会』などの全国規模の雑誌からも関係資料を収集することができた。 中国海洋大学における調査では、資料調査を実施するとともに研究会(10月25日)を開催して、中国におけるこの問題に関する研究状況や資料の所在について協議を行うことができた。研究代表者の麓慎一は、「東アジアにおける海産物流通」と題して研究発表を行った。特に、広業商会の崩壊から日本昆布会社の設立過程について発表した。この研究において、東アジアのドイツ商人がこの問題に関与していることを発見したことは、本年の大きな成果であった。中国人研究者の協力を得て、中国とドイツの関係史に関する論考を入手できたことも成果であった。また、報告の過程で入手した日本の外務省の関係資料からも、日本産の海産物とロシア産のそれが中国に輸入されるときになぜ関税の相違が生じたのか、という点やその格差の解消に向けて開拓使がどのような活動をしていたのかを分析することができたことも重要な成果の一つである。 「研究実施計画」の第五であげた、ロシア語文献の調査に関しては、作業を終了したが全ての資料を解析するところまでは、それを進展させることができなかったが、研究課題に直接関係する二つの資料を分析することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海産物が流通する過程については、これまでの研究を大きく凌駕する研究成果を示すことができたが、海産物を生産し加工しているアイヌ民族の問題が十分に解明できていない点が計画以上に進展している、とは評価できない理由である。 しかし、当初、予想してなかった成果もえることができた。それは、日本から上海への海産物の売り込みだけでなく、中国商人(煙台)などが長崎を経費してウラジオストックなどに海産物を買い付けていた点など、中国海産物をめぐる流通がより多角的であることを解明する契機を得ることができた。この点については、さらに解明していくことができれば、予想を超える研究の達成を得られ可能がある。
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今後の研究の推進方策 |
研究発表において、日本に在留している中国商人が海産物を上海や煙台に輸出する一方で、山東半島の中国商人が長崎でドイツの船舶を雇用して買い付けに来ている事実を発見した。これまでは、指摘されていない事実である。この問題を組み込んで本研究を遂行することで、東アジアにおける中国・日本・ロシア・ドイツの競合と共生がアイヌの生産する海産物流通に関係したことを解明する契機を得ることができた。平成24年度はこの点と海産物の生産過程の二点を中心に研究を推進する。 中国海洋大学において行った報告から広業商会の崩壊と昆布会社の設立過程について新たな知見を得ることができたので、昆布会社成立後の状況についてさらに研究を推進していきたい。広業商会については、必ずしも従来の研究を凌駕できていない部分もあるが、昨年度に収集した大日本水産会の報告を詳細に検討することで、状況を打破したいと構想している。明治中期までは収集したので、その後についても継続して複写して収集する予定である。 また、昆布会社がロシア産昆布の中国への流入を阻止するためにその関税の改定にも奔走していたことを解明することができた。さらに関係資料を収集することで、この問題が外交問題とリンクしていくことも解明できると推定される。このような点を今後の研究として推進する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の中国海洋大学における研究課題に関する研究会は、極めて有益であったので、本年も研究会を中国ないしは日本において開催する予定である。そのための旅費を昨年と同様に執行する予定である。中国で開催する場合には、研究協力者の中国への旅費が昨年同様に必要であるし、中国の研究者を招聘する際には、その旅費が必要となる。日本において開催する場合には、研究代表者の新潟大学で開催する予定である。 研究代表者の麓は、特にアイヌ関係の資料調査を北海道および東京などで複数回実施する予定である。おおむね研究は順調に進んでいるものの、海産物の生産者の動向を詳細に解明するための調査に全力をあげる。このために上記の旅費と資料の複写(経費としてはその他)およびその整理(謝金)に経費が必要になる。
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