大宝二年御野国加毛郡半布里戸籍をもとにシミュレーションを行った。半布里の実データを補正して、年を経るごとに人口が減少する人口曲線を最小二乗法による近似式の当てはめにより作成した。乳幼児死亡率が相当に高いであろうことを考えると、対数による近似式の方が曲線の形状としては近くなるはずだが、対数による近似曲線の場合、曲線の信頼度を示すR二乗値が低くなり、計算上の信頼度が低下するため、三次の多項近似式を採用した。次に、母子の年齢差から母の出産年齢を算出し近似式を作成する。近似曲線は出産時の母の年齢が一五歳から四五歳になる範囲のデータから作成した。こうして求められる母の出産例は述べ数であるが、この曲線を維持して一年間の出生数(人口曲線のY切片)に直すと、出生曲線を作ることが可能となり、その出生曲線と女性の人口曲線を組み合わせれば、年齢別の出生率を算出することが可能となる。 ライフサイクルシミュレーションでは、エージェントに一意の識別番号を与え、性別・年齢・配偶者・父・母を属性データとして持たせたデータベースを作成する。大宝二年を出発点として、エージェントごとに毎年、死亡・生存、婚姻、出生のイベントにつき乱数を発生させて評価した。年齢別の人口曲線から年齢ごとの死亡確率と女性の場合の出産確率を導き、乱数で生成して評価した。婚姻については、一定年齢の女性が再婚の対象から除外されること、男性と女性の年齢差を勘案し、その範囲内の女性との婚姻が成立するかを乱数で評価した。成婚率は、それを推測する根拠がないので便宜的に3分の1に設定した。一度の計算では生成した乱数の偶然性に左右されるので、50回など複数回繰り返すことでおおよその傾向を把握した。成果は本報告書に記載したものの他に、歴博の報告、岩波書店『日本歴史4』に掲載する予定。
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