研究課題/領域番号 |
23652160
|
研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
張 宏波 明治学院大学, 教養部, 准教授 (00441171)
|
研究分担者 |
石田 隆至 明治学院大学, 国際平和研究所, 研究員 (10617517)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 東アジア / 歴史認識 / 感情交流 / 共生 / 中国 |
研究概要 |
歴史認識が客観的な「歴史事実」だけでなく、「感情的要素」や「文化的背景」にも強く規定されている点に着目し、「感情交流アプローチ」を歴史学などにも応用して人文社会科学的調査手法へと彫琢することが本研究の目的である。 具体的には、戦争当事者などへの聴き取り調査および新しい史料の発掘などを行いながら、研究者の内面の変化を記述して相互に検討する機会をもち、共通の歴史認識を構築するための感情交流の可能性を模索してきた。 今年度は、日本各地の戦争経験者(特に加害を証言してきた元兵士ら)10名、および1950年代の中国で日本人戦犯の教育にあたっていた戦犯管理所元職員(遺族含む)4名から聴き取り調査を実施した。また、中国はじめ各地で、聴き取り内容を裏付ける当時の史料を収集することもできた。 本研究では、聴き取った内容はもちろん、それを聴いた側の内面的変化について分析することが一つの柱であるため、毎回の聴き取りを終えた後、聴き取った側の内面的(無)変化や認識枠組みの揺らぎの有無について、それぞれ自己分析し、報告しあう機会をもった。その結果、被害/加害をまたぐ中日の研究者が同じ話を聴いて、異なる反応をする場合もあれば、国籍の違いを超えた反応が現れる場合もあることが見えてきた。つまり、語り手が没感情的に戦争経験を語る場合には、聴き手側の感情や認識が揺らがずに前景化しやすい。ところが、語り手が戦争の反省を涙ながらに語ったり、あるいは悔しさを吐露しながら往時を回顧する場合には、聴き手側に認識や感情の違いがあっても一定の共感が生まれてくるのである。 違いを超越する共感が先立ってはじめて、違いについて論じる余地や可能性が生まれてくることを具体的に確認できたことは、現在の歴史認識問題を考えるうえで重要な知見であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた元兵士への聴き取りは一定程度実施することができた。実施できなかった部分は次年度に行う。また、聴き取り調査に基づく共同分析もある程度進めることができ、次年度への課題も明らかにできたからである。 ただ、「異質な経験や歴史観を有する調査対象者」、具体的にはナショナリストへの聴き取り調査が実施できなかったという課題を残した。これには二つの理由がある。第一に、費用面での限界。元兵士への聴き取りだけでも、今年度の交付額を使い切り、一部を自費で負担した。第二に、90歳を越えようとする元兵士の年齢を考えて、兵士への聴き取りを先に実施したためである。本来であれば次年度に実施する予定であった中国での関係者への聴き取りを今年度に実施したのも同様の理由からである。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度に一定程度得られた知見、すなわち「違いを超越する共感が先立ってはじめて、違いについて論じる余地や可能性が生まれてくる」ことについて、共感の中味や乗り越えるという情況の具体化、精緻化を図っていく必要がある。また、別の対象者への聴き取り調査を通じてさらなる検証を重ねていくと同時に、実際に違いを論じることについても、聴き取りの中で取り組んでみることが必要であると考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度はおもに加害側の調査であったが、次年度は被害者側の調査を中心に行い、感情交流アプローチの可能性を検討していくことになる。 そこでは、被害に関する共通認識をどう構成するか、被害者との「共通の歴史認識」をどう作るかについて模索する。被害者は感情的な語りをすることが多い当事者であるため、あえてその主観に巻き込まれることで、われわれの感情や認識にどのような変化や動揺が見られるのかについて検討する。 具体的には、中国大陸、台湾、日本国内での被害者からの聴き取りを行う。訪問先では、侵略・占領下および戦後の生活実態やそれに伴う苦悩等について聴き取りを行う。
|