研究課題/領域番号 |
23652160
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
張 宏波 明治学院大学, 教養部, 准教授 (00441171)
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研究分担者 |
石田 隆至 明治学院大学, 国際平和研究所, 研究員 (10617517)
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キーワード | 感情交流 / 戦後和解 / 東アジア / 歴史認識 / 聴き取り調査 |
研究概要 |
今年度は日本国内において、戦争の加害経験を証言する元兵士9名(複数回の聴き取りを実施した対象者あり)、その遺族1名、加害証言を引き継ぐ若者世代4名、戦争経験世代の研究者2名、戦後補償運動を取材していた在日中国人1名、文化運動で戦争を表現する団体1箇所など多様な対象者から聴き取り調査を行った。また、裏付け史料の収集活動も複数回実施した。 中国では北京や撫順、瀋陽などにおいて、1950年代の中国で日本人戦犯の教育にあたっていた戦犯管理所元職員2名から聴き取り調査を実施したほか、同所での史料収集、戦争被害関連の研究者2名との研究交流も行った。さらに、研究分担者は南京でのシンポジウムにおいて研究報告を行い、同地での戦争被害研究の現状について地元研究者との研究交流を行った。 こうした調査の内容や分析の結果を、学生との勉強会を通じて還元する機会も複数回持つことができた。 「領土問題」が焦点化され、歴史問題がクローズアップされるなかで聴き取りを行ったが、戦争経験者が現在の問題について語るときにも感情が高揚したり動揺したりして、戦時の感情経験を再現させていることが伝わってくる場面が見られた。戦争経験者にとって「現在」は過去の延長上にあり、現在世代としての調査者との感情交流分析をするうえで、領土問題はきわめて有益なテーマであった。これは中国側の調査対象者からの聴き取りでも確認でき、領土問題の解決のために必要とされる「共通の歴史認識」のためには、歴史事実や法的根拠の次元での共有が困難であるからこそ、感情の次元での交流を通じて問題の水準を確認しあうことの必要性が明らかになった。 また、90歳を越える対象者たちは抑圧してきた感情が徐々に弛緩しつつあり、記憶は曖昧でも感情のあり方を記録することを通じて、戦争経験を捉え直すことが可能であることを確認できた点も成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の研究調査において、加害者調査の対象者の超高齢化と研究費の制約から、複数の研究課題のうち、加害者からの聴き取り調査を優先的に実施する対応を取った。 今年度は、当初の計画では被害者調査を中心に行う予定であったが、前年度と同様の理由で加害者調査をできるだけ優先し、被害者調査については可能な範囲で実施する方向で計画を修正した。なお、被害者調査については、前年度に前倒しで実施した調査や、次年度で実施する予定があるほか、本研究の継続事業となる研究計画を申請しており、そこでも実施する予定である。 とはいえ、加害者調査も対象者の高齢化のため時間を要するものになっており、次年度以降も継続して実施する必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
調査対象者である戦争経験者の超高齢化が予想以上に進んでおり、分析の対象となる聴き取り自体が困難になりつつある。したがって、引き続き当事者からの聴き取りを重ねることを優先課題として取り組んでいきたい。 また、当事者からの語りの困難化を埋め合わせる可能性を持つものとして、戦争経験者の語りに影響を受けた戦中・戦後世代の人々からの聴き取りを模索的に進めているが、この点も継続していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度分の研究費も、応募時の申請額に比べて減額されているため、すべての計画を実行することは困難な部分があり、縮小を余儀なくされる。具体的な準備のなかでどのように縮小するかは進捗状況全体を見渡しながら決定していく。 また、今年度まで続けてきた加害者調査も継続を要する課題であるため、それとの関連で全体計画を修正していきたい。
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