最終年度はおもに文書館調査をおこなった。とくにユニテリアン教会文書館には、二重君主国期の多くの史料がきわめてよい状態で保存され、ある程度整理されていることがわかった。また、義務的市民婚を導入する婚姻法が制定される際の各教会の役割についての研究を調べたところ、反対の態度をとり続けたカトリック教会に関する著作が最も多く、その他、カルヴァン派、ルター派、ユダヤ教の対応についても研究があること、一方で、ユニテリアンの対応についてはあまり取り上げられていないことがわかった。このため、ユニテリアン教会に焦点を絞って、異宗派間の婚姻をめぐる問題について深く掘り下げた。 おもに調査したのは、ユニテリアン教会の理事会ならびに総会の議事録、およびその関連文書である。これらの史料からは、異宗派間の婚姻および婚姻法をめぐる、ユニテリアン教会内外での議論が浮かび上がった。とくに当時司教だったフェレンツ・ヨージェフが教会内の議論を主導し、教会として教育大臣に直接に意見書を提出したり、自身も教会関係者も新聞雑誌に執筆するなど、外部に対して教会の見解を説明すべく努めていたことがわかった。ユニテリアン教会が下した異宗派婚での判決が批判されることもしばしばあった。その際には、婚姻規定が国法に保証された教会自治の権利に属するもので、それに干渉できるのは、宗派の平等と相互性に基づいて定められる国の婚姻法だけだと主張し、教会として明確に婚姻法制定を要求した。教育大臣すなわち国の側の返答からは、教会の歴史的権利を否定することはできないと認識していたこともうかがえた。以上の調査結果を基に、婚姻法制定までのユニテリアン教会の活動を跡付けて、同教会が同法制定に果たした役割を考察する論文を現在執筆中である。
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