研究課題/領域番号 |
23652182
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
吉田 容子 奈良女子大学, 文学部, 准教授 (70265198)
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研究分担者 |
影山 穂波 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (00302993)
稲田 七海 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 研究員 (70514834)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 高齢者 / ライフヒストリー / 空間/場所の経験 / 福祉サービス / 地域コミュニティ |
研究概要 |
本研究は,京阪神大都市圏内の都市部・郊外および過疎地域において,以下の段階的方法に沿って調査を進めるものである。1)異なる地域に居住する高齢者のライフヒストリーを聴取し,彼/女らによる「生きられた世界」を時間地理学の方法論を援用して分析・考察し,一人ひとりのアイデンティティの構築過程を描き出す。2)「いま」を生きる高齢者の現状を把握し,直面している問題やニーズを明らかにする。3)高齢者の「生きられた世界」やアイデンティティが彼/女らの「いま」に影響していることを実証し,「いま」を生きるために必要としているものは何か見つけ出していく。4)地域間および高齢者間の差異を踏まえた有効な福祉サービスの供給を提言する。平成23年度は,次のような調査活動による成果が得られた。 奈良市,奈良県黒滝村および同県十津川村,和歌山県新宮市および同県白浜町において,高齢者を対象にライフヒストリーの聞き取り調査を実施した。聴取した一人ひとりの語りをテープ起こしし,まず,ライフコースにおける居住地移動の軌跡を図化した。たとえば,土砂災害の危険が高く,交通アクセスや教育・医療機関,商業施設等に極めて乏しい隔絶山村に生涯留まる意志を強固に持っている高齢者がいる一方,大都市郊外住宅地に居住する高齢者への調査では,居住地の移動歴が高い傾向がみられた。高齢者のライフヒストリーの聴取から,彼/女らのアイデンティティ形成において「場所(place)」がどのような意味を持っているのか,また,彼/女らの人生の中で紡がれてきたさまざまな関係性がいかに「生きられた世界」に反映され,またそれが地理的な差異となって「いま」に影響しているか。この答えは,本年度入手した個々人の質的データからさらに明らかにしてゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高齢者一人ひとりからライフヒストリーを聞き取る調査や高齢者の語りのテープ起こしに時間がかかったものの,非常に貴重な質的データが得られた。 ただし,個々人のデータ整理に時間を取られたので,地縁関係や地域コミュニティ活動に関して,また,それぞれの行政・地域で実践されている福祉サービスの内容について,踏み込んだ調査まで発展できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,京阪神大都市圏内の都市部・郊外および過疎地域を中心に,それぞれの地域で生活を送っている高齢者の方々からライフヒストリーを聴取する調査を実施し,質的データの収集に努める。所得階層,学歴,就業経験の有無,障がいといった差異を生み出す要因と文化的社会的構築物であるジェンダーとがどのように関係しているかを分析し,彼/女らの人生の中で紡がれてきた様々な関係性がいかに「生きられた世界」に反映され,またそれが地理的な差異となって「いま」に影響しているかを明らにする。 並行して,各自治体や福祉サービス供給機関への調査を実施し,具体的にどのような福祉サービスを高齢者が必要としているのかを,地域間および高齢者間の差異を踏まえつつ検討する。高齢者を一括りに考えた福祉サービス供給ではなく,彼/女らの「生きられた世界」や構築されたアイデンティティに留意した,一人ひとりのニーズに適った福祉サービスの重要性を説いてゆく。 なお,次年度に繰り越す研究費が生じたのは,平成23年度研究費の交付が遅れたことに加え,22年度の時点で予備調査済みであった奈良県黒滝村や十津川村,和歌山県新宮市が23年9月初めの台風12号で被災し,長期にわたって現地に足を踏み入れることができなくなったからである。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は,台風12号による災害で現地調査が遅れて十分な調査ができなかったため,次年度も引き続き,奈良県や和歌山県の山間地域や過疎地域を中心に高齢者を対象としたライフヒストリーの聞き取り調査を行い,データを収集する。このための宿泊を兼ねた調査旅費を次年度に計上。 また,研究成果の一端を発表するため,ケルン(ドイツ)にて平成24年8月下旬開催の第32回IGU(International Geographical Union)大会で,「ジェンダーと地理学」コミッション主催のセッションにて,研究代表者(吉田)が報告を行う。従来の高齢者研究にジェンダーをはじめとする差異の視点が欠けていることや,男性中心主義的な見方から脱却していないことにかんがみた本研究のチャレンジに対し,海外研究者から有益なアドバイスが受けられることを期待している。この経費として海外出張旅費を計上。
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