研究課題/領域番号 |
23652184
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研究機関 | 富山国際大学 |
研究代表者 |
助重 雄久 富山国際大学, 現代社会学部, 准教授 (40235916)
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研究分担者 |
須山 聡 駒澤大学, 文学部, 教授 (10282302)
浦山 隆一 富山国際大学, 現代社会学部, 教授 (10460338)
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キーワード | 景観 / 図像 / 風景印 / ナビゲーション / 観光案内地図 |
研究概要 |
須山が担当する理論的研究では、国内島嶼部の郵便局に設置された風景印図像について記号論を援用した分析を深化させた。また、比較対象として韓国の郵便局に設置された風景印図像に描かれた景観が表象するイデオロギーを分析した(須山・鄭,2013)。韓国の風景印は都市と国土全体の2つの観点を導入しており、とくに後者は国家のイデオロギーに沿った題材を呈示し、国民を教導するものであることを明らかにした。 助重・浦山が担当する応用的研究では、観光案内サインの作り手である行政がどんな意図をもっているのかに注目し、福岡・鹿児島両市で現地調査を行った。福岡市が九州新幹線の開業前に行った案内サイン整備では、市内全域の観光案内の充実やデザインの統一よりも、博多駅周辺の複雑な動線を明快に示すことが優先され、福岡を象徴する事物を観光客に強く印象づけるものではなかった。一方、鹿児島市の案内サイン整備は、九州新幹線で鹿児島中央駅に降りた観光客を徒歩、市電、市内周遊バスで西南戦争の史跡等に誘導することに主眼を置いた。観光案内サインは観光ルート上に集中配置し、薩摩切り子をイメージしたデザインにしたり、桜島の方位を示したりして、鹿児島を象徴する事物を観光客に強く印象づけるという明確な意図をもっていた。鹿児島市の意図は、韓国の風景印のそれとは異なるが、図像を見る物に強く印象づけ、作り手の意図する方向に導く点に共通性が見出せた。 また、平成23年度に調査・分析を実施した金沢市では、作り手である行政の意図が観光客に伝わっているのか否かをヒアリング調査により検証した。この結果、行政が「十分」と考えていた地図の表示範囲に関して、半数の観光客が「行動範囲に比べ狭すぎる」と回答した。この結果から「わかりやすい地図」を作るには観光客の行動範囲や目線を意識した行政の取り組みが必要なことが明らかとなった(助重・佐竹,2013)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理論的研究である景観の図像化メカニズムの分析に関しては、国内の郵便局に設置された風景印の収集・分析に加え、韓国の風景印に関する比較分析を進めたことで、風景印に描かれている景観図像や、それらが表象するイデオロギー等に関する分析が深められた。また、それらについての論文公表も実施した。これらにより、理論的研究については概ね計画通り進行してきたと考えられる。 応用的研究である観光案内サイン(観光案内地図や案内矢印等)の分析については、現地における地図画像の観察や撮影、実測等の調査や行政担当者へのヒアリングが概ね完了したが、平成24年度に金沢市で実施した観光客へのヒアリング調査により、行政側が観光案内地図に込めていた意図が観光客には十分理解されていない=観光客にとっての地図の「わかりやすさ」と行政側が考えた「わかりやすさ」が乖離している状況が明らかとなり、新たな課題が生じた。 また、理論的研究と応用的研究の融合に向けた作業については、一定の融合点は見出せたものの、研究代表者・分担者の本務校の行事日程や教育業務の都合で打ち合わせ日程が限られており、やや遅れで気味である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるので、理論的研究と応用的研究の融合に向けた作業が中心となる。理論的研究については、応用的研究との融合を進めていく過程で、応用的研究の成果もフィードバックしながら理論のさらなる深化を図っていく。また、この過程で矛盾点や理論的研究のみでは解決困難な課題が生じた場合は、随時フィールドでの補足調査も実施し、課題の解決を図っていく。 応用的研究に関しては、観光客にとっての地図の「わかりやすさ」と行政側が考えた「わかりやすさ」が乖離している状況が、金沢市以外の地域でも生じているのかどうかを検証する必要が新たに生じた。この点については、観光地としての地域的性格が類似している京都市において、金沢市で行ったのと同様な調査を可能な限り早い時期に実施し、両者の結果を比較・分析して課題の解決を図っていく。 理論的研究と応用的研究の融合に向けた打ち合わせや作業については、研究代表者・分担者の本務校の行事・学務等が比較的少ない夏期休業中等に集中して実施するとともに、Eメール等の電子的手段による打ち合わせも実施して、速やかに最終的な成果を導き出していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」でも述べたように、理論的研究と応用的研究の融合過程での課題解決、応用的研究の検証には、現地での補足調査が必要と考えられる。このため、補足調査にかかわる旅費が必要である。また、現地でのヒアリング調査によるデータ収集や、その後のデータ入力・資料整理を円滑に行うには学生のアルバイトが必要なため、謝金も必要となる。 また、理論的研究と応用的研究の融合に向けた研究代表者・分担者全員での打ち合わせは、助重・浦山の本務校または、須山の本務校(または、その周辺)で行う必要がある。また学会での成果発表も予定しており、打ち合わせや学会出張にかかわる旅費も必要となる。 研究成果報告書の作成に関しては、提出するPDFのほか、冊子体のものも印刷する方向で予算を計上していたが、①観光案内地図についてはカラー画像を多用する必要があり印刷費がかさむこと、②郵送費も必要なことから、冊子体のものは簡易製本で必要最小限の部数を作成することとする。 なお、研究成果報告書に使用する写真・数値データなどの整理・保管および報告書版下等の作成には、ファイル・文具やカラープリンタのインク等が必要となる。これらについては消耗品費で購入する。
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