1)思想としての〈アイヌ〉:木名瀬(研究代表者)は前年度に続き作家・鳩沢佐美夫関連資料の整理・体系化、とくに本年度は書簡等に基づくライフヒストリーの再検討を行った。ウィンチェスター(研究協力者)は、思想および政治状況の中での近現代アイヌの著述家たちの言説を引き続き分析した。 2)アイヌ文化研究史:木名瀬は1950年代の「アイヌ民族綜合調査」に関し学史的観点から検討。とくに社会人類学研究の中心を担った泉靖一の調査について、国立民族学博物館所蔵フィールドノートの解読に基づき再検討を行った。山崎(連携研究者)は前年度から継続している文献調査に加え、現在活動中のアイヌ工芸家たちからの聞き取り調査を実施し、伝統工芸の現代への継承のあり方について検討した。坂田(連携研究者)はアイヌ口承文学におけるモチーフ・話型の調査・分析を前年度に引き続いて行い、これらとアイヌの歴史認識との関連についてのケーススタディを深化させた。 3)大衆メディアと知:長岡(研究協力者)は前年度に引き続き戦後のNHKにおいて制作されたアイヌ関連番組の比較検討を通じテレビのアイヌ表象についての考察を発展させた。喜多(研究協力者)は「北海道文学論」の言説分析を通じた「北海道」の自己表象の構成過程についての検討を引き続き行った。 12月には国立民族学博物館で研究会を開催、同館で10月から3年半計画で開始した共同研究についての概要を齋藤玲子助教からレクチャーしてもらい、本研究との関連を検討するとともに、本研究をさらに発展的な課題に接続させるための方策について総括討論を行った。 なお、昨年度末の時点では、上記1)~3)のメンバーが執筆した論文集の出版を目指していたが、その後出版社との交渉を含め計画の再構築が必要となったため、成果報告集の刊行を平成25年度中に先行させ、それを土台とした図書の刊行を改めて期すこととなった。
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