研究課題/領域番号 |
23652195
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
子島 進 東洋大学, 国際地域学部, 准教授 (90335208)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 |
研究概要 |
2012年1月20日から2週間、パキスタンのスィンド州を訪問した。同地は、2009年ならびに2010年の2回にわたって大洪水の被害を受けた地域である。同州の州都カラチにベースを置き、関連NGOの訪問を行った。その後、洪水の被災地である内陸部スィター地方に移動した。 現在、パキスタンでは治安が不安定な状況が続いている。とりわけ、大地主制度が堅固な形で存続するスィンド州内陸部において外国人がフィールドワークを行うにあたっては、住民とりわけ大地主との信頼関係構築に万全を期し、彼らの庇護下に入る必要がある。今回訪問した村においては、パキスタンのNGOであるアル・カイール・ビジネス・グループ(AKBG、本部カラチ。なおカイールは福祉を意味する)が、日本のNGOである日本ファイバー連帯協議会(JFSA、本部千葉市)と共同で支援活動を実施している。洪水により倒壊した家屋15戸の再建、ならびに集落を洪水から守るための防護壁(バンド)の修復作業は大地主、農民の双方から高く評価されている。これら一連の支援に関して、NGOならびに住民の双方から聞き取り調査を行った(なお、個人名、団体名の記載に際しては、先方の許可を得ている)。 とりわけAKBGと緊密な関係をもつアル・カイール・アカデミー(カラチ北部のスラムに立てられた学校)の生徒たちが村へ赴き、ボランティア活動を行ったことは大きな社会的意義を有していると言えるだろう。ここから、村の農産物をスラムへ持ち込み販売することの検討も始まっている。村での調査からカラチへ戻った後、ボランティアに参加した複数の教師ならびに生徒たちにもインタビューを行うことができた。これにより、支援活動の広がりを確認することができた。 なお、東日本大震災に対して関心を抱くパキスタンNGO関係者に対して、積極的に情報提供を行ったことを付言しておく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1月から2月にかけての調査では、現地でのフィールドワーク、ならびにNGO関係者へのインタビューを実施することができた。 このときに得た資料を分析したものを、本年6月に、国立民族学博物館の共同研究「NGO活動の現場に関する人類学的研究―グローバル支援の時代における新たな関係性への視座」において発表する予定である。この共同研究は、NGOならびに市民社会に関する研究を行う人類学者・社会学者によって構成されている。すでに現時点で、A4にして15枚の発表原稿を用意することができた。被災地の状況に加えて、支援を行うパキスタンNGOの視点、ならびにこのパキスタンのNGOを支援する日本のNGOの視点を織り込んだものである。民博での発表の際のコメントを受けて、第一報となる論文をまとめることとしたい。まずは、所属する東洋大学国際地域学部国際地域学科の紀要への投稿・掲載を考えている。第2回の調査までに、この第一報を完成させることによって、調査のさらなる深化が期待できるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査活動、ならびに今後の研究報告を踏まえ、被災地支援に従事するパキスタンのNGOの活動を進めていくこととしたい。とりわけ、これまでの研究では「支援の対象者」としてのみ認識されてきた都市スラム居住者が、農村支援に従事した事例を確認できたことは、重要である。今後、さらなる調査によって、新たな問題提起を惹起する研究となる可能性を秘めていると考える次第である。 ただし、懸念事項は、パキスタン国内の治安が不安定なまま推移していることである。多くのNGOが本部を置く、カラチでは民族間抗争、さらに北部の山岳地帯での宗派間対立が緊張の度を増している。この困難な状況を勘案すると、調査対象とするNGOの数を増やすことは断念し、被災地と信頼関係を築いているAKBGとJFSAの活動に焦点を当てて、その詳細な民族誌的資料を収集することに集中することが、きちんと成果を生み出すうえで現実的な判断となろう。 当初予定していたカシミール地震(2005年に発生し、死者8万人の大災害となった)の被災者に対するNGOの支援活動を直接観察であるが、とりわけ2012年に入って、北部の宗派間対立が長期化する様相を呈してきている。これによって、現地調査を安全に実施することが、難しくなることも想定しなくてはならない。しばらく事態の推移を見守る必要がある。地震被災地での調査をとりやめ、スィンド州での洪水支援調査に集中することもありうるだろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度もまた、10日から2週間程度の現地調査を実施する予定である。現地の気候を勘案して、12月以降に調査時期を設定することを考えている。 全体で50万円の予算であるが、このうち40万円を現地調査に充当することとなるだろう。すなわち、パキスタンへの旅費(航空券、宿泊・日当)30万円、NGOに対する調査地案内料・車両代10万円の計40万円である。これは2011年度の調査実績を踏まえたものであり、まず大きく変更することはないものと考えている。 残りの10万円を国内旅費(5万円)ならびに書籍・文具代(5万円)に充当することとしたい。
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