研究課題/領域番号 |
23652195
|
研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
子島 進 東洋大学, 国際地域学部, 准教授 (90335208)
|
キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
2013年1月に、カシミール地震の際に支援を行った団体ヒンマットを訪問した。Himmatというウルドゥー語の名前は、勇気を意味する。「人類への奉仕」をミッションとして掲げる。主要な活動は、1)Al-Ilm School (Shamsato)、2)Frogh-e-Ilm Scholarship、 3)Vocational Centre、4)Relief、5)Qurbaniとなっている。 2)の孤児に対する奨学金、5)のイードに際しての貧者への援助などは、イスラーム系NGOの定番プログラムである。1)は、ペシャーワルにあるアフガン難民のための学校である。2000年にヒンマットが女子の小学校として立ち上げ、制服や教科書、文房具などを支給している。学校は順調に規模を拡大している。 4)の救援活動に関して、2005年のカシミール地震についての資料を得られた。この地震によるパキスタンでの死者数は7万4,698人に達した。発災直後、ヒンマットはラホールの事務所を救援本部とし、コーディネーション、寄付、薬品、輸送、ボランティア、緊急救援などの担当委員会を作った。寄付金で物資を購入し、ボランティアを募り、輸送手段を整えて、小麦粉、米、衣料、毛布などの物資を被災地に届けた。日頃の地域での貢献が認められ、多くの寄付が寄せられた。被災地に送り出した物資の総計は、トラック125台1500トンにものぼった。被災地ではManseraに現地本部を置き、各地にフィールドキャンプを設置した。1万5000家族に1か月分の食料を支給し、7万7000人の患者/負傷者に食事を提供した。さらに、心のケアの提供なども行っている。住宅再建プログラムでは、700家族が住居を得ることとなった。被災者自身が自分の土地に、ただ与えられるのではなく、自らも参加して住居を作るとプログラムであった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査を通して、「助け合い・奉仕の精神」、「人類への奉仕」というイスラーム的な価値観に根差した理念こそが、イスラーム系NGOの特徴の第一点であることを確認できた。 第二点として、パキスタンにおいても、ミドルクラスによる奉仕活動が、ここ10年ほどで顕在化してきたことを理解できた。そして、中核となってNGOを運営する人々を金銭面や労力提供の点で支援する人々が、それぞれの地域に少なからず存在するということである。そして、これらの団体の活動からは、イスラームの信仰心に根差しつつも、外に開かれていることがうかがえる。ヒンマットが困っている人への奉仕、地域の問題解決に向けてアクションを起こすとき、それをザカートやサダカの寄付という形で支える人々がいることが、その活動を活性化させている。 パキスタンにおける宗派間、あるいは民族間の緊張と対立は、きわめて厳しい状況にある。隣国アフガニスタンの政治状況も簡単には安定しそうにもない。このような厳しい状況が長く続く中にあって、自らの奉仕で地域や国を変えていこうとするミドルクラスが、あちこちでアクションを起こしている。そして、彼らの息の長い奉仕活動を支えているのが、宗教的な覚醒なのである。NGO研究の観点からは、この社会現象こそ宗教復興と呼ぶにふさわしいと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの2年間の調査研究活動で得られた資料を精査し、報告書にまとめる。「助け合い・奉仕の精神」、「人類への奉仕」というイスラーム的な価値観に根差した理念こそが、イスラーム系NGOの特徴であること、パキスタンにおいても、ミドルクラスによる奉仕活動が、ここ10年ほどで顕在化してきたことを、複数の事例をもとに詳述する内容とする予定である。また、中核となってNGOを運営する人々を金銭面や労力提供の点で支援する人々が、それぞれの地域に少なからず存在するということも強調したい。また、彼らが外に開かれたネットワークを形成している点を、今回の研究から指摘したい。グローバル化の時代における異文化理解ならびに異文化交流におけるきわめて重要な視点となるであろう。
|
次年度の研究費の使用計画 |
これまでの2年間の調査研究活動で得られた資料を精査し、報告書にまとめる予定である。過去2年間の調査では、カラチ、ラホール、イスラマバードなどパキスタンの主要都市を訪問し、大地震と洪水被害に対応したNGOを訪問した。各団体から得た資料を分析する。英文で報告書を刊行し、研究者・NGO関係者に配布することとしたい。
|