研究課題/領域番号 |
23653007
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小塚 真啓 金沢大学, 法学系, 准教授 (60547082)
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キーワード | ゲーム理論 / 法人所得課税 / パス・スルー課税 / 租税法律主義 |
研究概要 |
個人所得課税がある中での法人所得への課税方式として、従来、パススルー方式と比べて理論上劣後するとされてきた法人所得課税が、経済的効率性などの観点から正当化される可能性が近年指摘されている。本研究は、組織の経済学やゲーム理論などの知見に基づいてそうした可能性を検証し、その結果などをもとに、法人所得課税の意義を再検討することを目的とするものである。 本年度は、ゲーム理論を応用した文献の収集・整理及びその考察を進める一方で、経済効率性に着目する議論、特に、厚生経済学を応用する議論が租税法学においてどのように位置づけられるものか明らかにしておくべきことが判明したことから、公平などの概念に依拠する租税法学上の伝統的な議論を批判し、厚生経済学に基づく議論を擁護したことで知られるLouis Kaplow教授の論稿(Louis Kaplow, Human Capital under Ideal Income Tax, 80 Va. L. Rev. 1477 (1994))についてその現代的意義などを検討し、その結果を論文として公表した(拙稿「Louis Kaplowの人間資本論についての覚書」税研28巻4号92-98頁(2012年))。 Kaplow教授の上記論稿は、個々の納税者の関心事ではないはずの(生誕時点での)将来収益の現在価値計算を国家の観点から当然視する点に大きな特徴があり、同論稿の検討を通じて、そうした(厚生経済学を応用する議論に特徴的な)姿勢の租税法学上の位置づけにも目を向けるべきであると気づけたのは大きな収穫であった。最終年度では、納税者間(例えば、経営者と株主との間)の関係だけでなく、(今年度の研究により得られた知見である)そうした関係を課税権者である国家がどのように見るのかという点をも踏まえ、法人所得課税についてゲーム理論等を応用した検討を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究は、次の2つを行う予定であった。(a)1年目の法人所得課税に関する先行研究の整理を取りまとめ、公表する。(b)組織の経済学やゲーム理論の分野での先行研究の調査・整理及びその知見の習得を進める。 (a)平成23年度末の時点で、先行研究の取りまとめは完了していたものの、そうした議論を租税法学上どのように位置づけられるものか明らかにすることが必要であるとの判断に至り、厚生経済学の応用を擁護したKaplow教授の論稿の検討を先行して進めたため、先行研究の整理を公表するには至らなかった。現在、上記検討の成果を踏まえたかたちでの公表の準備を進めている。 (b)については、順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で達成できなかった先行研究の公表を行ったのち、当初の計画通り、本研究の成果を取りまとめ、論文として公表することを目指す。 分析にあたっては、計画の通り、構成員間のエージェンシーとプリンシパルの関係に着目して法人所得課税の再検討を試みる先行研究(Hideki Kanda & Saul Levmore, Taxes, Agency Costs, and the Price of Incorporation, supra)を出発点とするが、課税権者である国家の視点も踏まえる。すなわち、国家がどのような利益を有するのか明らかにし、納税者の利益とどのような関係に立つのかも分析する。 なお,本年度から繰り越した助成金については,国内研究者との交流の経費(旅費など)に充てることを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究資料(論文や書籍)の入手や、国内の研究者との交流等にあてる。
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