本研究は,従来場所的に妥当する法の衝突の回避の際に用いられてきた「法域」概念を現代的な視点から①法域の場所的拡大と②その質的変容を分析軸に再検討するものである。前年度は,超国家機関の法と位置づけられるEU法及び国際契約法分野における非国家法を素材に,上記①である法域の場所的な拡大について分析を行った。本年度は,従来の学説が法域概念をどのように捉えていたかについて,各年代を代表する抵触法学者の文献を中心に分析した後,上記②である法域の質的変容についての検討を行った。 具体的には,法域を法の及ぶ「場所」と捉える考えから,法が及ぶ分野への転換の可能性を探った。その際には,システム理論と抵触法の関係についてドイツのルーマン見解及び「レジーム間の抵触法」の理論を提唱するトイブナーの見解を手がかりとした。その上で,国家法での処理がなじまないと考えられる商慣習法の他,インターネット法といった分野法の成立可能性についての検討を行った。さらに,いわゆる法多元主義の見解を手がかりとして,非国家法としていかなる法が既に存在し,また考えられるかについて精査した。 そして,本年度の上記②に対する分析に,前年度の上記①の検討結果を踏まえ,レジーム間ないしは分野別の抵触法の創設ないし具体化については今なお課題が残っていると思われるが,少なくとも上記①及び上記②の変化により,法域概念は,従来の意味内容より広い意味で捉えるべきとの一応の結論に至った。
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