研究概要 |
2013年度においては、まず第1に、2010年の日本の裁判所による国際法判例の収集・分析とデータベース化、注目すべき動向についての検討を行った。ここでは、人権法や難民法の分野で、少数ながらこれまでの判例の誤りや不十分性を認め、国際的動向に沿った判断を示したものがあったこと、とくに、社会権享有についての国際人権条約上の差別禁止原則の裁判規範性を否定する議論が塩見訴訟最高裁判決で確定したかに思えたが、他の人権条約の立場との整合性等から、肯定説が有力となっていることが観察できた。また、判例を通じて、退去強制先がない事実上の無国籍者の問題も提起されていることが観察できた。これは、裁判所と立法行政がもたれあって実際上の問題に全く対応していない事例ということができる。 研究期間全体として、2008~2010年の日本の裁判所による国際法判例の最も詳細な分析と検討を提供できたと自負している。また、2009年の主権免除法(外国国家民事裁判権法)や入管法改正(2004, 2009)年の成立経緯・解釈・裁判所による適用状況の分析、さらには環境分野における国際義務の実施の問題の分析も進められた。そこでは、国際義務の実施を意識してなされたはずの立法の部分的な改正が、当該立法全体の構造にすでに実質的影響を及ぼしているにもかかわらず、裁判所によって適用される段階になると従来の構造理解から極めて消極的な実施となってしまっていることがなど観察された。日本の裁判所は、旧来の制度全体の整合性に神経質で、部分的な法改正による国威義務の実施の局面では、その機能は限定的であることが観察できた。もっとも、裁判での具体的問題の提起が、限定的ながらその後の立法の推進力ともなっている。 以上のような端緒的な研究成果を、たとえば国際法学会2013年研究大会におけ公募セッションに応募・発表して、学界に還元する活動を実施した。
|