研究課題/領域番号 |
23653030
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
平嶋 竜太 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (70302792)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 特許権 / 行政行為 / 市場競争 / 差止請求権 / 権利の排他性 / 特許出願プロセス |
研究概要 |
本研究では、特許権の存在および権利行使が、市場における競争や技術的イノヴェーションのあり方に対して大きな影響をもたらしうるものとして競争政策上重要な位置を占めつつあることが昨今強く認識されているにもかかわらず、現行の立法構造上、特許権を付与する過程たる特許出願審査プロセスについては競争政策との連携性がほとんどとられていないことに着目し、特許出願審査プロセスにおいて競争政策を指向した評価概念を織り込ませることによって再構成することの理論的可能性について、基礎理論に立ち返った追求を試みることを目的とするものである。 平成23年度においては、本研究における研究対象にもっとも密接に関連のある特許出願プロセス及び特許査定、設定登録の法的性質及び特許権の行使が市場競争に対してもたらす競争阻害的影響を中心として、法と経済学の分野における議論といった関連領域における研究状況を含めて、幅広い文献を収集するとともに、知的財産法の視点にとどまらず行政法の基礎理論に立ち返った検討・考察を行った。 現段階で得られた知見は以下のようなものである。すなわち、特許権の生成メカニズムについての分析の結論として、特許を受ける権利を起源として特許査定及び設定登録という2つの行政行為を伴うことによって特許権が成立するといえるものの、これらの行政行為は市場における発明の完全なる排他的利用を裏付けるに足りる理論的基礎を有するものではないこと、その反面、現行の特許付与プロセスでは完全なる排他的独占権としての特許権の付与が特許庁における行政プロセスで行われているという理解(誤解)を極めて生じやすい制度構造にあることが指摘できるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、特許権の権利生成構造を明らかにした上で、1)特許出願発明への権利付与に伴う市場競争への影響の調査を出願審査に反映させることの法理論的可能性、2)特許査定処分によって、特許発明についての全ての「実施」行為一律に排他的権利を設定するのではなく各種「実施」行為毎に付与する「権利の排他性」の程度を変化させる(例えば対価徴収権)の法理論的可能性、3)特許出願審査プロセスへの上記考え方を導入することに伴って期待される効果の理論的検証、を明らかにすることを目的とするものであることから、平成23年度はその理論的基礎となる事項について検討考察をほぼ行えたものと考えられる。具体的には、特許権生成における行政過程としての特徴、法的性質について解明することによって、特許庁という行政庁が特許付与過程において果たしうる役割機能についての理論的可能性を考える基礎が整ったといえる。 なお、平成23年度に達成・獲得された研究成果については、これまで研究代表者が本研究助成を受ける前から独自にかつ継続的に行ってきた理論的研究の蓄積の結果として獲得された知見をベースとして得られた部分が存することから、研究経費としては当初計画に予定していた予算額に至るものまでを使用しなくとも、一定の成果が得られ、おおむね順調に研究目的の達成が図られたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度では、これまで明らかにされた理論的基礎を基に、特許出願審査プロセスにおいて競争政策を指向した仕組みを導入することの具体的可能性を視野に入れつつ、1)特許出願発明への権利付与に伴う市場競争への影響の調査を出願審査に反映させることの法理論的可能性、2)特許査定処分によって、特許発明についての全ての「実施」行為一律に排他的権利を設定するのではなく各種「実施」行為毎に付与する「権利の排他性」の程度を変化させる(例えば対価徴収権)の法理論的可能性、3)特許出願審査プロセスへの上記考え方を導入することに伴って期待される効果の理論的検証という主要検討項目について取り組むことを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年には、前年度に継続して、(1)研究に必要な基礎的資料の収集とその充実、(2)資料分析、詳細検討項目の洗い出しと整理、(3)各詳細検討項目についての研究、(4)各詳細検討項目を統合させた総合的検討と追加的研究項目の抽出、を基本として、そこに必要とされる文献収集、情報収集に研究費を使用する計画である。 具体的には、文献の購入、及び知的財産法、行政法、経済法といった関連諸分野における法律研究者や法律実務家から特許権の行使と市場競争の調和という課題に対する意見や問題認識等を聴取することも、本研究における具体的な研究を進行させる上でも極めて意義があるものと考えられることから、ヒヤリングを中心に国内外の調査研究活動を行うための旅費及び謝金等にも使用する計画である。 なお、平成23年度の当初計画予算と残額の間には、相応の差額があり、結果的には予算残額が生じている状況となった。このような状況となった背景事情としては、平成23年度に行った研究成果については、これまで研究代表者が独自かつ継続的に行ってきた理論的な研究成果を礎として応用的に展開することによって得られたものが存することから、研究経費としては当初計画として計上していた予算額に至るものを使用しなくとも、所定の研究成果まで獲得することができたことが挙げられる。 また、このような残額と平成24年度の当初予定研究費を合わせることによって、平成24年度では、当初計画していた研究計画よりもより充実した調査研究活動、具体的には国内外(とりわけ国外)におけるヒヤリング調査やより広範囲の文献収集といった事項についても充当することが期待できるものと考えられるのである。
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