研究課題/領域番号 |
23653032
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
勝久 晴夫 大阪大学, 知的財産センター, 特任助教(常勤) (00597958)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 消費者法 / 民法 / 知的財産法 / 交錯領域研究 |
研究概要 |
平成23年度は、1.先行研究の調査と整理、2.意見交換会の実施、3.研究成果の公表を行うことを予定しており、次の通りの実績が得られた。1.については、平成23年の消費者法学会のテーマが「集団的消費者利益の実現と実体法の役割」であったこともあり、このシンポジウムを受けての研究成果に商標・不正競争分野と消費者契約法の交錯領域研究に示唆の得られる先行研究が見つかった。他方で、特許及び著作権の分野においては未だ先行研究は見当たらなかった。2.については、先行研究を踏まえた研究経過の報告として、大阪大学において2012年3月26日に研究報告「消費者法学の進展と知的財産法ー競争秩序論と知的財産法の交錯ー」を行なった。報告では、知的財産法と消費者法の交錯領域研究の一つとして、消費者契約法における集団的消費者利益概念及び消費者契約法に基づく適格消費者団体による差止請求を商標法・不正競争防止法との交錯領域として検討を行い、市場における商標権侵害製品の流通が商標権者の利益を侵害するのみならず集団的消費者利益侵害という消費者利益をも侵害する場合がある点について指摘するとともに、係る場合の法的救済の場面で生じうる課題を指摘した。この報告に対して、出席した研究者・実務家と意見交換を行うとともに、連携研究者である茶園成樹教授から助言を受けた。3.については、2.の報告に基づく論文を阪大法学に掲載する予定であるが、退官教授の記念号と時期が重なったため、23年度中の公表はできなかった。次年度の前半に公表をする
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的において示した、1.商品の表示を巡る知的財産法と消費者法の交錯、2.デジタル製品・オンライン市場での知的財産製品の取引と消費者法の交錯、3.大学の知的財産ガイドラインによる「学生の発明」の権利処理と消費者法との関係、4.消費者保護論の台頭が知的財産法へ及ぼす影響、という4つの柱のうち、1及び4について、一定の方向性が得られたことから、研究はおおむね順調に進んでいると評価できる。今年度の研究では、消費者契約法における適格消費者団体の差止請求が立法された経緯の中で、集団的消費者被害概念が重要な役割を果たし、この集団的消費者概念について、商標権の侵害製品を購入した消費者が具体的に被る被害のほかに、市場に商標権侵害製品が流通すること自体が市場秩序を害するもので、かかる被害を集団的消費者被害の一つとして観念できることが確認された。この研究成果から、商品の表示を巡る知的財産法と消費者法の交錯領域、及び消費者保護論の台頭が知的財産法へ及ぼす影響について、集団的消費者利益と競争市場秩序をキーワードとして考察を行った結果、商標権侵害製品の流通によってもたらされる商標権者の被害と消費者の被害が一致しない場合があり、係る場合に商標権者にとっては「被害」とはいえず、あえて差止請求などを行わない状況が、消費者の集団的消費者利益を害する場合を生じさせ、商標権者と消費者の利益衡量が必要であるとの結論が得られた。次年度にこの利益衡量の具体的内容を明らかにすることなどの方向で研究を行うことにより、本研究の目的を達成することができることから、本年度の研究はおおむね順調に進展したものと評価することができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、23年度中に公表できなかった論文について、速やかに公表する。次に、本研究の4つの柱である、1.商品の表示を巡る知的財産法と消費者法の交錯、2.デジタル製品・オンライン市場での知的財産製品の取引と消費者法の交錯、3.大学の知的財産ガイドラインによる「学生の発明」の権利処理と消費者法との関係、4.消費者保護論の台頭が知的財産法へ及ぼす影響、のうち、24年度は2と3を中心に調査研究を行う。特に3は、これまでの調査でも先行文献がほとんど見当たらないことから、慎重に分析を行うとともに連携研究者に助言を求め、かつ、専門家・実務家に積極的にヒヤリングを行う。また、消費者法について先行研究が豊富なアメリカ若しくはドイツを対象に海外調査を行い、資料収集・ヒヤリングを実施する。海外調査に当たっては、十分な成果が得られるよう準備を行い、対象国等の選定に当たっては、連携研究者等に相談した上で、決定する。最終年度には、本研究の4つの柱を中心にこれまでの調査研究を踏まえた最終成果報告をまとめ、論文の形で公表するとともに、意見交換会を実施し、専門家・実務家と意見交換を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費としては、本研究と関連する民法及び消費者法、知的財産法の内外文献の購入を中心に20万円程度使用する。また、海外調査で必要となるノートパソコン等の購入に15万円程度充てる。旅費は、国内の学会及び研究会に参加するため、または、必要に応じて専門家にヒヤリングを行うために15万円程度使用する。さらに、次年度に海外調査を実施する場合は、航空券及び滞在費として40万円程度をこれに充てる。次年度に海外調査を行わず最終年度に行う場合は、この40万円程度は繰り越すことを予定している。海外調査時期については、連携研究者等の意見を踏まえた上で決定する。また、必要に応じて、通訳・翻訳のための人件費、抜き刷りを国内の研究者に送付し意見を伺うための通信費を支出する。
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