日本の裁判所は、条約の国内的効力や直接適用可能性を判断しないまま、環境条約に照らしてその違法性を判断する傾向がある。条約が国家に与える裁量の大きさから違法と判断された事例はない。環境条約を根拠の一つとした自然破壊行為の差止請求や原告適格を正当化する「自然享有権」について裁判所は認めていない。環境条約の私人間適用に裁判所は消極的だが、国内法の解釈において条約の趣旨や規定を反映させる間接適用の手法が、環境条約においても同様に採用されうる。環境条約が援用される例は限られ,現時点では環境条約が裁判所の判断と実務に与える影響以上に、環境条約の援用が提起する国内法の限界や課題を検討することに意義がある。
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