ひとつは前年の学会報告をペーパー化したもので、日本におけるポリティ観念の変容についての分析である。第二次分権改革における条例による国法の「上書き」論争に、参加するのではなく解釈学的にアプローチすることで、それらの言説に現れているポリティ観念の変容を同定した。それにより、従来ポリティは、同一レベルにおいては他から干渉されないこと、異なるレベルにおいては階層的に整序されることを正当とする言説が優位であったのに対して、現在の日本では、ポリティが「多元化」「不確定化」「重層化」して設定されることを許容する方向へと言説がシフトしていることが明らかになった。 当該課題「統治機構のポスト近代に民主主義の規範理論はいかに応答可能か?」にとってのこの分析の含意は、そうした言説の変化がひるがえって政策決定単位の自律性という近代民主的法治国家の前提を変化させているということである。 もうひとつの成果は、法制度としての民主主義から距離をとって、いわゆる地域ガヴァナンスの成功事例を分析し、そこから民主主義の規範理論への示唆を探った学会報告である。事例とした伊予市双海町は、重複しあう任意団体の民・民連携にあとから行政がリンクする地域ガヴァナンスの好循環を形成している。 当該課題への示唆は、「民主的正統化の異なる様式をひとつの単位に包含する」規範理論の必要性である。例えば、(同市の他地域のように)自治条例に基づかせることで、地域ガヴァナンスを民主的法治国家の手続き的正統性に回収するのでなく、任意団体内の意思決定における異なる正統性形成のありようを法治国家の正統性とリンクさせる場合、一貫した民主主義の規範的自己理解はどのように可能であるか。現実に機能している民主主義の様態は、従来の、正統性を主権概念から連鎖的に引き出すのとは異なる民主主義の理論によって規範的に認知されるべき時期にあるという知見を提示した。
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