本研究はイスラーム政治運動の分析を通じた中東地域システムの理解を目的とする。この目的を達するために、(1)「イスラーム政治運動・イスラーム主義政党の動向」および(2)「イスラーム政治運動・イスラーム主義政党の支持構造」という二つの課題を解明する。これらの課題を解明することで、イスラーム政治運動の影響力が国境の枠内にとどまる点で限界があり、その限界が中東地域システムの一面を形作っていることを明らかにしたい。 これまでイスラーム政治運動は地域的な連帯と広がりを見せるグローバルな現象であると説明されてきた。しかし各々の運動を検討すると、国民国家の枠を超えて影響力を行使することは希である。4名の研究協力者がそれぞれエジプト・ムスリム同胞団、ヨルダン・ムスリム同胞団、ヒズブッラー(レバノン)およびイスラーム急進派に関する研究を行ったところ、やはりその活動のほとんどは国境線の内側にとどまることが明らかになった。 したがって第一次世界大戦の戦後処理によって外生的に形成された中東諸国の国家体制は「人工的である」と評価されながらも、一方で国際政治におけるアクターとしての役割を果たしている。それゆえに国際関係理論における秩序観は中東地域政治の動態分析においても有効性を持つといえる。
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