研究課題/領域番号 |
23653063
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
丸山 真人 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (40209705)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 持続的開発 / 人間の安全保障 / ナイジェリア / モンゴル / 開発のスピード |
研究概要 |
モンゴル国の資源開発のうち、現地調査で明らかになったのは以下の諸点である。まず、国家が開発の主体となり、外資導入が行われている大規模開発現場においては、少なくとも採掘に先立って埋蔵文化財の一部発掘調査は行われている模様である。また、採掘に際しての安全基準の順守、採掘後の跡地埋立による環境への影響の軽減措置などもなされている。たとえば、ゴビ砂漠南部ハンボグド郡のオヨー・トルゴイ鉱床(銅、モリブデン、金)では、採掘権を握っているIvenhoe Mines Mongolia Inc.が、モンゴル国の文化的伝統を尊重し、自然の破壊ではなく、自然に感謝するという理念に基づいて採掘計画を実施していることが、現地での視察およびチベット仏教による地鎮祭参加により裏付けられた。また、同じくゴビ砂漠南部のツォグトツェツィー郡にあるタワン・トルゴイ鉱床(石炭)では、複数ある採掘権所有会社のうち、Energy Resourcesの幹部に話を聞くことができたが、それによると石炭採掘は長期的視点により行われており、状況に応じて採掘のスピードを遅らせ、将来世代のために保存することも考えているとのことであった。しかも、そうした採掘計画がチベット仏教の理念に支えられているという。他方、地方政府がローカルに行う採掘、とりわけ石炭採掘は、ほぼ無規制状態であり、埋蔵文化財の破壊、自然環境の破壊が著しい。採掘された石炭は中国(内モンゴル)に輸出されるが、採掘現場から国境に至る道路は、石炭運搬トラックが列をなして通り抜け、粉塵をまき散らしている様子が至る所で目撃された。こうした現状については、モンゴル国環境省の幹部、文化財保護NGO団体の幹部とも、認識を共有しており、地方政府の開発行為を制御するための制度改革、意識改革が焦眉の課題であるにもかかわらず、手つかずの状態であることが浮き彫りになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、人間の安全保障の主要課題の一つである持続的開発が、資源輸出国において確立されるための基本条件を、ナイジェリアおよびモンゴルの事例に即して解明することである。とりわけ、それぞれの国における資源開発が自然環境および社会的文化的環境に与える影響を、開発の目標、対象、手段、規模、速度の各方面から具体的に把握することを目標とする。そのうえで、開発のスピードを下げ、開発の規模を縮小することが、開発する側と開発される側の双方にとって長期的に有利となるかどうかについても、あわせて検討する。この目的に照らし合わせて平成23年度の研究実績を評価すると、モンゴル国における開発について、きわめて特徴的な構造を明らかにすることができた点で、期待通りの成果を上げることができたと考えられる。すなわち、国家レベルの大規模開発においては、自然環境の保全、社会的文化的環境の尊重など、開発に伴う諸問題をあらかじめ意識して回避しようとする配慮がみられるのに対し、地方レベルの小規模開発では、ほぼ無規制状態でむき出しの市場原理が働いていることを明らかにすることができた。しかも、開発の速度や規模に関して、モンゴル国におけるチベット仏教が強い影響力を及ぼしている点も明らかにすることができた。他方、ナイジェリアに関しては、研究協力者エニオラ・ファブソロ教授によって、農業開発の組織化の観点から予備的な考察が行われたが、自然環境、社会的文化的環境への影響については手つかずのままに残された。
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今後の研究の推進方策 |
モンゴル国に関しては、平成23年度に集積したデータを整理し、引き続きモンゴルでの資料収集の継続と最新情報の更新に努める。その上で、調査実績を踏まえて明らかになってきた構図、すなわち、チベット仏教の精神を背景に自然、社会、文化的な環境に配慮した国家レベルの大規模開発と、無規制の地方レベルの小規模開発との対比的な構図をより鮮明なものにしていくことを試みる。 ナイジェリアに関しては、中西部の農業開発に焦点を合わせ、農耕民の組織化が環境の保全、とくに森林環境の保護にどのように寄与することになるのか、そしてそれが地域住民の生活の安全保障にいかに寄与すると考えられるか、また、資源利用をめぐる遊牧民と農耕民の相互依存関係が、環境の持続的利用にいかに作用するのか、という観点から、現地調査を行いたい。訪問先としては、イバダンにある国際熱帯農業研究所(IITA)および、研究協力者エニオラ・ファブソロ教授の所属するナイジェリア農業大学(アベオクタ)を考えている。さらに、有機農業の普及を通して農民の生活の向上と安定化を目指す諸団体についても、可能な限り聞き取り調査を行いたい。この最後の課題を遂行するため、できれば、有機農業普及活動が盛んでナイジェリアともこの活動に関して交流のあるガーナやベナンを訪問し、研究者との意見交換、最新資料の収集を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度においては、モンゴル現地調査の旅費が予想よりも安く抑えられたため、年度末にモンゴルの研究者を招聘して東京でシンポジウムを開催する計画を追加しようとした。しかしながら、モンゴル人研究者との日程調整がうまくいかず、招聘が実現しなかったため、年度を超えて研究費の一部を繰り越すことになった。平成24年度は、上記推進方策に従って、研究協力者木村理子(東京大学学術研究員)の助力を得て、モンゴルにおいて環境NGOや文化財保護団体への聞き取りを行い、鉱床開発がもたらす環境への影響に関する市民の意識を調査するとともに、日本にモンゴル人研究者を招聘して小規模なシンポジウムを実施する。一方、ナイジェリアでは、研究協力者レジーナ・フー(東京大学特任研究員)の協力を得て、上述の国際熱帯農業研究所(IITA)やナイジェリア農業大学の研究者との意見交換及び現地視察、ベナンではアボメ・カラヴィ大学農学部の有機農業研究者への聞き取り調査、ガーナではクワメ・エンクルマ科学技術大学の同じく有機農業研究者への聞き取り調査を遂行し、有機農業の普及を通した農民の組織化の可能性について展望を得る。さらに、農耕民と遊牧民との相互依存関係の実態について、当事者への聞き取り調査を行う。
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