研究課題/領域番号 |
23653067
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
高阪 章 関西学院大学, 国際学部, 教授 (00205329)
|
キーワード | マクロ金融政策レジーム / マクロ政策のトリレンマ / 国内金融システム / マクロ経済ショック波及メカニズム / マクロ金融リンケージ / 東アジア新興市場国 / グローバル金融危機 / 地域金融協力 |
研究概要 |
グローバル金融危機など、自由な資本移動のリスクが再認識されており、無条件に金融資本自由化を是とする金融政策レジームは、途上国のみならず先進国についても再検討する必要がある。そこで本研究では、東アジア新興市場を対象として、各国の多様性を明示的に考慮しつつ、高い資本移動性の下でも頑健なマクロ金融政策レジームはどのようなものかを探る。具体的には、マクロ経済ショックの構造と金融政策の波及メカニズムを実証的に検討する。ショックの構造について、対象国のマクロ・バランス(部門別貯蓄・投資)、金融仲介システム、対外債権・債務構造の時系列的変化を把握した後、複数の外生ショックがマクロ経済に与える影響とその構造変化の源泉を探る。 今年度は金融政策の波及メカニズムについて研究を進めた。まず対象国の政策運営の沿革を把握した後、Swiston, 2008等の方法を用いて、各国について金融市場の多様性を反映したFCIを作成し、マクロ金融リンケージを精査し、その構造変化と源泉を探った。景気循環における金融リンケージの役割はFCI推計で確認できる(Shinkai and Kohsaka, 2010)が、その結果、①日本の場合、過去30年間の景気循環において、90年、97年、2000年の景気後退で貿易などの実物要因よりは、バブル崩壊など株式市場・外為市場・信用市場を通じた金融要因(ショック)が支配的な役割を果たしたこと、今回のグローバル金融危機においても金融要因の果たした役割が大きかったこと、②97年のアジア経済危機で大きな打撃を受けたインドネシア・韓国・マレーシア・タイについて同様の分析を行ったところ、日本ほどではないものの過去30年間の各国の景気後退局面で金融要因が重要な役割を果たしたこと、また、今回の金融危機でも資本フローのボラティリティに関わるリスク要因が韓国などで重要な役割を果たしたことがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者(高阪)は、研究全体を統括するほか、東アジア経済に関する研究蓄積に基づいて比較軸となる欧州新興市場との対照性を調査した。また、連携研究者(小川・佐藤)は国際マクロ・国際金融の知見にもとづき、課題の遂行に協力すると共に、計量分析作業に対して助言を行った。若手連携研究者(新開)らは、それぞれ、担当する対象国のマクロ経済ショックの時系列分析作業に取り組んだ。研究代表者と連携研究者・研究協力者は、2ヶ月に一度程度、定期的に研究会を開催、また、国内出張によって、意見交換・ヒヤリングを行い、加えて、今年度は海外出張により、海外調査および学会報告を通じて、関係機関における資料収集・研究者との意見交換を行った。 上記の「研究実績の概要」はこれらの研究活動の成果であり、そこでまとめた3つの論点はいずれも、従来の議論では明確にされて来なかった、他の新興市場に比べて東アジア新興市場経済のみに見られる特徴をアイデンティファイしたものであり、同地域のグローバル金融危機に際しての頑健性の基礎となる要因として注目される他、これらの構造変化は、従来、非伝統的なものとされてきた、同地域のマクロ政策レジームの正当性・妥当性を示すものとして大きな政策的インプリケーションを保つものと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
ここまで、新興市場のマクロ金融政策レジーム選択を考察するため、マクロ経済ショックの構造と金融政策の波及メカニズムを実証的に検討してきた。まず、1)対象国のマクロ・バランス(部門別貯蓄・投資)、金融仲介システム、対外債権・債務構造の時系列的変化を把握した後、東アジア新興市場の国際資本市場とのマクロ金融リンケージおよび国内金融システム発展との相互関係を考察した。そして、2)複数の外生ショックがマクロ経済に与える影響を精査し、また、その構造変化と源泉を探った。 平成25年度は最終年度であり、研究代表者と連携研究者・研究協力者は、これまで同様の活動を実施する他、暫定的な成果を国際会議・学会等で報告し、さらに、ここまで蓄積した知見をベースに、より大型のプロジェクトを組成し、本格的な共同研究を始めるべく、次年度以降の研究計画を策定することとしたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
国内出張では、成果発表(東京-大阪2回)、研究打合せ(東京-大阪2回)のため、計200千円を計上する。海外出張については、調査・研究および成果発表旅費として、計1,000千円を計上する。研究実施に必要な人件費として研究補助および専門的知識の提供のため、200千円を、そして研究会開催に必要な会議費として200千円を計上する。以上の結果、次年度の研究費総額は1,826千円を予定している。 なお、次年度への繰越金(1,126,158円)は、2013年3月27日から実施した海外調査・学会報告が年度をまたがったために次年度に支出を繰り越さざるを得なかったことによる。
|