グローバル金融危機など、自由な資本移動のリスクが再認識されており、無条件に金融資本自由化を是とする金融政策レジームは、途上国のみならず、先進国についても再検討する必要がある。そこで本研究では、東アジア新興市場を対象として、各国の多様性を明示的に考慮しつつ、高い資本移動性の下でも頑健なマクロ金融政策レジームはどのようなものかを探る。具体的には、マクロ経済ショックの構造と金融政策の波及メカニズムを実証的に検討する。ショックの構造について、まず、対象国のマクロ・バランス(部門別貯蓄・投資)、金融仲介システム、対外債権・債務構造の時系列的変化を把握した後、複数の外生ショックがマクロ経済に与える影響とその構造変化の源泉を探る。 その結果、①東アジアの場合、アジア危機の手痛い経験を踏まえて、新しいマクロ金融政策レジームを作り上げてきたと評価できることがわかった。それは、自由な為替変動、資本移動といった従来の政策処方箋の示すところとは異なり、それらを巧みに管理することによる折衷的だが、現実的な政策運営である。他方で、国内金融深化の停滞がもつ意味は今後精査する必要があることもわかった。さらに、②97年のアジア経済危機で大きな打撃を受けたインドネシア・韓国・マレーシア・タイについては、日本ほどではないものの、過去30年間の各国の景気後退局面で金融要因が重要な役割を果たしたこと、また、今回の金融危機でも資本フローのボラティリティに関わるリスク要因が韓国などで重要な役割を果たしたことがわかった。 この年度は最終年度であり、研究代表者と連携研究者・研究協力者は、これまでと同様の活動を実施した他、成果を複数回にわたって国際会議・学会等で報告し、さらに、最終国内研究会を無事に完了することができた。今後は、蓄積した知見をベースに、新たなプロジェクトを組成し、本格的な共同研究を始めたい。
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