研究課題/領域番号 |
23653070
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
江本 直也 日本医科大学, 医学部, 准教授 (50160388)
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キーワード | 行動経済学 / 神経経済学 / ヘルスリテラシー |
研究概要 |
平成24年度に改変した新しいアンケート調査を行った。【方法】外来2型糖尿病患者100名に、外来にてアンケートを手渡し、記入後郵送で送ってもらうこととした。謝礼として500円の図書券を前渡しとした。アンケートは19問からなる。以下にその一部を示す。 (問5) あなたは子供のころ、休みに出された宿題をいつ頃することが多かったですか。 ①休みの最初の頃が多い②休み期間中ほぼ均等に③休みの終わり頃が多い(問6) 現在のあなたなら、休みに出された宿題をいつごろやりますか。①休みの最初の頃②休み期間中ほぼ均等に③休みの終わり頃(問14)あなたを含む100人のうち、10年以内に心筋梗塞や脳梗塞になる人が何人の確率だと自分も心筋梗塞や脳卒中になると思いますか?(問15) あなたを含む100人のうち、 10年以内に心筋梗塞や脳卒中になる人が50人だとします。ある薬を飲むと、その50人が25人に減ります。あなたは、毎月いくらならその薬を飲み続けますか? 【結果】アンケートの回答率は前回の謝礼図書券後渡しの49%に対し、前渡しでは61%に上昇した。微量アルブミン尿 30mg/gCre以上の腎症を有する患者では、問6の現在でも宿題を休みの終わり頃にすると答えた患者が19名中7名で、腎症のない患者の35名中4名と有意差(p<0.05)を認めた。問5の子供のころについては差を認めなかった。また合併症を持っているか血糖コントロールの悪い患者では問14の質問で低い数値で脳血管障害の危険性を認識していながら、問15でその回避に支払う金額は少ない回答だった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の投資マインドを測定するために行動経済学で使われていたアンケートが、糖尿病患者の血糖コントロールの良悪を予想する手段として使えるかどうかを検証してきている。アンケートには500円の図書券というインセンティブを設けているが、コントロールの悪い患者ほど回答率が悪かった。また、質問項目によっては十分理解して答えているのかわからない部分もあった。そこで平成24年度は質問項目を改変し、さらに図書券を前渡し(科研費からの支出は回答者の分のみ)とした。これらの工夫によって2型糖尿病患者に関しては49%から69%と飛躍的な回答率の上昇を認めた。また、24年度のアンケートでは1型糖尿病患者53名からもデータを収集したほか、学生23名からもデータを集めることができ、比較対照することができた。これらの分析結果より、コントロールの悪い糖尿病患者では、純粋に経済学的な意味でも、また健康に関する問題においても、金銭的な価値に置き換えて定量的に判断することが苦手であることが判明した。これは数字の取り扱いリテラシーの問題と深くかかわっていることが考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのアンケートでコントロールの悪い2型糖尿病患者の特徴として、金銭や確率などの数字を扱った質問に対して無回答あるいは直接的な解答を回避する傾向があることが判明した。その心理的メカニズムとして次のようなものが考えられた。(1)不良群は損得に関心がない、あるいは(2)定量的にものを考えるのが苦手である、(3)数字そのものの扱いが苦手である、さらには(4)質問の意図そのものが理解できていない、などである。特に(2)(3)(4)は単純なリテラシーの問題である可能性がある。最近、健康情報を上手に利用できるスキル、保険医療分野の「読み・書き・そろばん」の能力をヘルスリテラシーと呼び、健康維持に大きな影響を持つことが多くの調査研究で示されている。この問題を克服するような質問設定を考案すること自体が、糖尿病治療に有用な手がかりを与える可能性がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、これまでのアンケートをさらに増やして上記で得られた結論を確立する。研究費は引き続きアンケート謝礼の図書券、郵便通信費に使用する。さらに「読み・書き・そろばん」ともいえるリテラシーの問題を克服するような文章や数字による質問アンケート方式ではなく、ビジュアルな手段を使った患者の性向を探り出せるような画像を使った行動経済学的分析手法を開発する。そのためのコンピューターおよび関連ハード、されにソフトの購入にあてる。
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