研究概要 |
【目的】行動経済学の理論を応用して、糖尿病患者の行動メカニズムの解明を試みている。【方法】1型患者66名、2型患者 153名に行動経済学的アンケート調査を行った。分析の対象となったアンケート部分のみを示す。(問a)半々(50%)の確率で2,000円当たる宝くじがあります。 あなたはこのくじを、いくらまでなら買いますか?(問b)百分の一の確率(1%)で10万円当たるくじがあります。 あなたはこのくじを、いくらまでなら買いますか? (問c)あなたは子供のころ、休みに出された宿題をいつ頃することが多かったですか。(問d)現在のあなたなら、休みに出された宿題をいつごろやりますか。 【結果】アンケートの回答率は1型87.9%に対し、2型71.9%と有意に2型の回答率が低かった(p<0.05)。1型では若年者が多く、2型では高齢者が多いため、年齢階層別の回答率分析を行ったが、この結果はマンテル・ヘンツェル法による統計解析で有意差を認めた(p<0.01)。問aおよび問bは不確実な収益に対する確実等価を尋ねている。数学的期待値はいずれも1000円である。質問の文章を正確に理解し、数学的に妥当な金額を真面目に答える意志と能力が問題となる。45歳以上65歳未満においては、1型と2型に有意差を認めた(p<0.05)。問c、問dは池田(自滅する選択, 東洋経済新報社,2012)によって示された問題の先送りの傾向を測る質問で、2型において、3期以上まで進行した腎症の患者では、子供の頃も現在もともに宿題を休みの終わり頃にやると答えた患者が32%であったのに対し、2期以下の患者では14%と有意に少なかった(p<0.05)。【考案】今回の分析により2型には怠惰さとリテラシー能力の低さが認められた。1型は膵臓のインスリン分泌障害であるが、2型は脳の神経経済学的意味での適応障害である可能性がある。
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