24年度は,引き続き公的年金、特に農業者年金と農業生産活動の関連について統計分析を行った。旧農業者年金では農家単位で少なくとも一人は加入することが原則で、かつ国民年金と付加年金にかならず加入する。そのため国民年金も加入率が高く、支給額はその制度が提供するもっとも高い額になる。公的年金のシミュレーションを行うと、1990年には、夫婦で年額150万円を越える給付額になる。農家にあっては自家消費や帰属家賃を考慮すれば、高齢者の実質的な所得は200万円以上のものになり、農村での「暮らしやすさ」を補強し、単独でも生活可能な水準であったわけである。 農家の生産年齢の生活がコメなど農産物価格水準の改善によってもたらされたとすれば、戦前の酷かった働けない老人の扱いが、公的年金の導入後改善されていったといえる。農家にインタビューをすると、親の年金についてはほとんど知らないとの回答が多い。また、好きに使ってもらうことを容認する発言、そうあることに誇りであるような回答も聞く。 一方、親の懐具合がよくなったため、子世代は親が高齢になっても扶養を必ずしもみる必要がなくなったことが指摘される。親が農業や農村から離れない理由は、農業と年金でそれなりの固定所得が確保され、独立した生活が可能であるということも大きな要因である。そのことが子供の他出を可能にした。その結果、農村に高齢者人口の滞留が発生したが、同時に子世代の適職への移動も可能にしたものと推測できる。 また、農業者年金を含め、農家高齢者への公的年金の提供は、農業という産業だけでは無理であった。世代によるが掛け金の十数倍にもなる年金額が提供されているのだが、その大部分は農外産業の年金保険料からの移転である。 農業政策として進められている法人格化は、農業者年金の役割を厚生年金に変え、また強制加入という点も加味して、農家の高齢者の老後が保障される。
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