研究課題/領域番号 |
23653079
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
小川 浩 神奈川大学, 経済学部, 准教授 (00245135)
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キーワード | 医療需要 / GIS / マイクロシミュレーション / 医療レベル / 医療安全 |
研究概要 |
本研究の目標である医療安全・労働安全を満たす医療機関配置のうち、必要な医療機関の規模については平成23年度に実施した待ち行列を用いたシミュレーションにより年間数千件以上の分娩取扱という強力な集約化が必要であることが得られた。しかしながら、医療機関の規模を拡大することは医療圏の拡大、ひいてはアクセス時間の増加を意味する。産科は救急の側面もあるため、医療機関へのアクセス時間が増加することは医療安全レベルを低下させることになる。 平成24年度は規模拡大に伴う「医療機関としての安全性向上」と「アクセス性低下に伴う安全性低下」について比較検討するため、前年度に行ったシミュレーションの結果をベースにアクセス時間について国勢調査地域メッシュデータを用いて分析を行った。 この際、既存の医療機関からコアとなる医療機関を作り、合併あるいは機能の分業によって周産期医療に関する規模を拡大する方針を採用した。これは集約化のベースとなる医療機関を全く新規に建設することは非現実的であるという認識による。 平成24年度は、まず1次的な接近として全国の総合周産期母子医療センターをコア病院として集約化を行った場合のアクセス可能な範囲およびその中に含まれる出生割合(出生カバー割合)の推計を行った。この推計の結果として、医療上問題が発生しない程度の到着時間(1時間圏)の出生カバー割合は全国平均では83.2%、90分未満まで条件を緩和すれば93.6%となることが分かった。しかしながらこの値は地域によって大きく異なり、全国的には西高東低となっていることが見いだされた。また、特に東北・北海道では4割を切る地域もあることが明らかとなった。 このことより、医療安全・労働安全のための集約化を進める際には全国一律ではなく、地域特性に応じた対応を行う必要があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予定では平成24年度には各地での医師ヒアリングを含めて研究完了の予定であった。しかしながら、ヒアリングおよびシミュレーションを担当する研究代表者が病気(がん)に伴う手術・療養のため平成24年7月から12月までヒアリング作業を行うことができなかったことにより、モデル改訂作業が遅れ、その結果としてその後の作業スケジュールが全般に遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は研究計画の最終年度であり、アクセス性と医療安全・労働安全を両立させる医療機関の配置が実際に可能であるかどうかのGISシミュレーションを実施し、論文として公表することを予定している。 平成24年度は総合周産期母子医療センターに集約することを前提とした単純な推計を行ったが、平成25年度は全国の500床以上の病院(約500病院)をコア病院の候補とし、アクセス性を確保した上でさらにどこまで集約化が可能であるかを検討する予定である。ここで500床を一つの基準としたのは、小峰ほか(2010)で提唱されている「まちなか集積医療」での経営効率が最適となる規模であることと、医療圏人口が50万人程度、出産件数では年間4000件程度となり医療安全・労働安全の面からも無理がない規模であることによる。ただし、一体的に運用可能な程度に地理的に近い場所に300床程度の病院が2件以上立地している場合は、大阪の「りんくう総合医療センター」のように機能分業によって実質的に500床以上の病院と同じ機能を持つ可能性もあるため、このようなケースも考慮の対象とする。 もちろん、実際に分娩取扱可能な産科医数には強い供給制約があるため、アクセス性に問題が出ない範囲では500床規模の病院を更に集約化して行くことが前提となる。 平成24年度の分析で明らかになっているように、集約化へのプロセスは地域ごとに大きく異なる可能性が高い。本研究では、産科医の供給制約と医療安全・労働安全を満たした上でアクセス性を満たすような医療機関配置が1例でも可能であることを示すことまでを目的としており、各地域での集約プロセスについては今後の研究課題となる。 小峰隆夫,ほか(2010). 『「まちなか集積医療」の提言』. NIRA研究報告書, 財団法人 総合研究開発機構, 2010年3月.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究内容は(1)前年度実施できなかった医師ヒアリング、(2)GISシステムを用いたシミュレーション、(3)結果の論文としての発表、の3点となる。そのため研究費は(1)の調査旅費、(2)のGIS SaaSの利用費、(3)の論文校閲費に支出する予定である。
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