研究課題/領域番号 |
23653086
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川名 洋 東北大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (70312527)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 都市化 / 公共施設 / 都市空間 / 市場 / 都市史 / 西欧都市 / カンパニー / ロンドン |
研究概要 |
本研究は、産業革命に先駆けて西欧世界に定着する都市化現象をクローズアップし、中でも注目される社会インフラの整備、継承や衰退のプロセスに内在する豊かな歴史的意味を探究することを目的とする。そのためにまず、有効な歴史資料の調査を行い、公共施設を利用しつつ市民的共同体を強化する西欧都市独特の政治、経済、社会のあり方について分析し、かかる公共施設の歴史的影響について端的に把握する方法の確立を目指す。 平成23年度には、イギリスの地域流通拠点を対象に、商業の発達と都市公共施設との関係を取り上げ、商取引を円滑にするため設けられた主要な制度と建築物に着目して調査を進めた。その結果、都市を利便性・効率性に依拠した単なる経済組織としてではなく、歴史資料により裏付けられる政治・社会空間として総括的に把握する分析方法の有効性が高まった。例えば、主要な港町の商業に欠かせない波止場の開発や堤防の修復には早くから都市自治体が積極的にかかわり、他方、政治的共同体の象徴でもあった市壁に備わる市門は、都市民と農村民とが交わる商取引の場として利用され、都市自治体も注目していた。一方、市庁舎の建築記録は一二~一三世紀の史料に現れ初め、一六世紀にはその建設や増改築が相次ぎ、そこに商業と都市政治という二つの力が融合する様子がはっきりと映し出されることがわかってきた。 かくして本調査により、中世・近世都市では商業のエネルギーを市民的共同体の活力へと転換させる西欧独特の歴史プロセスが、公共的および私的な場に出現する建物とその周辺に色濃く現れる様子を再現するために必要な基礎資料が整い、実証分析に向け研究を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年3月11日に起こった東日本大震災の影響により、執行可能な予算額の確定が例年よりも大幅に遅れたため。また、都市公共施設の歴史的背景に関する文献情報の量が研究計画作成時において想定していたよりも多く、基礎資料のサーベイに長時間を要したため。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に実施された調査から、公共施設の外形的特徴やその機能、建設のタイミングなどが、「商業化」の進展と密接に関わることがわかったが、そのことによって、公共施設の機能と経済動向との関係を分析する枠組みを他の経済部門にも応用できるという展望も開けてきた。 そのため平成24年度については、平成23年度の研究実績および本研究計画を踏まえ、都市を中心に展開する商業以外の経済発展にも注目し公共施設の機能に与えた影響に関する調査と分析を継続する。そこで、平成24年度の研究では、「工業化」の動向に焦点を当て、まず中世から近世にかけて都市を中心に展開する製造業の特徴について基礎資料の調査を行い、その結果をもとに、工業と関連する主要な公共施設を整備した都市の政治、経済の動向について分析を進める。 さらに、商取引以外のサービス業も都市の公共施設の機能に影響を及ぼしたと考えられることから、その資料調査および分析を平成25年度以降の課題としたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、物品納品の遅延のため、当初計画していた文書館所蔵の資料調査を一部次年度に延期したことにより生じたものであり、延期した資料調査に必要な経費として、平成24年度請求額とあわせて使用する予定である。
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