研究課題/領域番号 |
23653086
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川名 洋 東北大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (70312527)
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キーワード | 手工業 / ギルド / 工業化 / 女性 / 移民 / 公式 / 非公式 / イノベーション |
研究概要 |
本研究は、本格的工業化の時代に先駆けて西ヨーロッパに顕在化する都市化現象をクローズアップし、中でも注目される社会インフラの整備、継承や衰退のプロセスに内在する豊かな歴史的意味を探究することを目的とする。その予備的研究としてまず、有効な歴史資料の調査を行い、産業集積を制度蓄積と連動させて市民的共同体を強化する西欧都市独特の政治、経済、社会のあり方について分析し、かかる産業集積の歴史的影響について端的に把握する方法の確立を目指す。 平成24年度には、イギリス各地の流通拠点を対象に、工業の発達と都市制度との関係を取り上げ、産業集積を円滑にするため設けられた主要な産業組織の機能に着目して調査を進めた。その結果、都市が、その基本的経済機能となる流通拠点としてだけではなく、非農業人口を着実に吸収する産業空間としても有効な分析対象となるという論理を組み立てることができた。例えば、高度な手工業技術が集中する都市では、中世・近世を通じて同業者組合を基礎に私的な経済行為を公的な価値へ昇華するべく制度の成熟が目立つが、その中心となる産業組織には、単に商関係を損なう情報の非対称性など取引費用増の問題を緩和する働きだけでなく、新製品や生産工程の合理化を含むイノベーションを促進する機能もあり、定住男性中心の公式な経済と女性や移民により形成される非公式な経済の両面を持つ都市に適合した構造を有していたことがわかってきた。 かくして本調査により、ヨーロッパの中世・近世都市では工業のエネルギーを市民的政治共同体の活力へと転換させる西欧独特の歴史プロセスが、公共的および私的な場で展開される生産プロセスに色濃く現れる様子を再現するために必要な基礎資料が整いつつあり、現在、実証分析に向けた予備的研究を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、課題となった都市工業史に関する文献調査において関連する情報の量が当初想定したよりも多く、基礎資料のサーベイに長時間を要し、さらに、マイクロフィルムリーダーなど故障などにより資料調査が遅れぎみとなったが、その一方で、平成23年度のように執行可能な予算額の確定が災害等の影響により例年よりも大幅に遅れるようなことはなく、予資料調査の基準となる論点を効率的に精査することにより成果報告をまとめる時間を短縮することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年から24年度にかけて実施された調査から、公共施設の外形的特徴やその機能、建設のタイミングだけでなく、都市特有の制度蓄積の様相などが、「商業化」および初期の「工業化」の進展と密接に関わることがわかり、その結果、公共施設の機能と経済動向との関係を分析する枠組みを他の経済部門にも応用できるという展望も開けてきた。 そのため平成25年度については、平成23年および24年度の研究実績および本研究計画を踏まえ、都市を中心に展開する商工業以外の経済発展にも注目し都市機能に与えた影響に関する調査と分析を継続する。平成25度の研究では、都市のサービス部門の動向に焦点を当て、まず中世から近世にかけて徐々に都市経済を下支えするようになるサービス業の展開について基礎資料の調査を行い、その結果をもとに、商工業が都市に与えた物理的・制度的影響と対比しつつ都市の政治と経済の動向について分析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費残額は、基本文献の調査にもとづく成果発表の準備を前倒しにしたため当初計画していた文書館所蔵の資料調査を一部次年度に延期したことにより生じたものであり、延期した資料調査に必要な経費として、平成25年度請求額とあわせて使用する予定である。
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